スタッフ
監督:エドワード・ドミトリク
製作:ハリー:ケラー
脚本:ピーター・ストーン
撮影:ジョセフ・マクドナルド
音楽:クィンシー・ジョーンズ
キャスト
スティルウェル / グレゴリー・ペック
シーラ / ダイアン・ベイカー
キャセル / ウォルター・マッソー
クロフォード / リーフ・エリクソン
ジョセフソン / ケヴィン・マッカーシー
レスター / ジャック・ワトソン
カルヴィン / ウォルター・エーベル
ウィラード / ジョージ・ケネディ
ブローデン博士 / ロバート・H・ハリス
日本公開: 1965年
製作国: アメリカ ユニバーサル作品
配給: ユニバーサル
あらすじとコメント
前回が謎の女に翻弄される男のヒッチコック作品。今回も謎の女が登場するヒッチコックばりの少し変わった巻き込まれ型サスペンス映画。
アメリカ、ニューヨーク。とある高層ビルが突如停電する。丁度、終業時間でスティルウェル(グレゴリー・ペック)は、27階の事務所から室内非常階段で降りようとする。すると、暗がりからシーラ(ダイアン・キャノン)が声をかけてくる。「あら、いつ戻ったの?この停電も、また、少佐のいたずらかしら」彼女は馴れ馴れしく話しかけてきた。「初対面じゃないかな。僕は君を知らないけど」不思議そうな顔をするシーラ。当たり障りのない会話をしながら、地上へ降りる二人。ドアを開け、ロビーの薄明かりにスティルウェルの顔が浮かんだ瞬間、「悪い冗談は止して」とシーラは驚いて地下へと逃げだした。地下4階まで追いかけるが、彼女の姿はどこにもなかった。
諦めて外へでると、ビルから飛び降り自殺があり騒然としていた。どうやら死んだのはカルヴィンという老人らしい。すぐに市長やFBIがやってくるという。その名前に、聞き覚えがあるような気もしたが、野次馬を避け、ビルの前のバーに入るスティルウェル。「やあ、いつものを頼む」「いつもの?」バーテンが不思議そうに尋き返してきた。狐につままれたような気になり、一杯で退散するとビルの電源が戻ったのが見えた。すぐにビルに入り、彼女の姿を探そうと地下へ向かった。しかし、何と地下1階までしかないではないか。
何ごとが起きたか解らぬままマンションへ戻ると、いきなり男(ジャック・ウェストン)が拳銃を突きつけて来た。「少佐がお待ちだ。すぐ荷造りしろ」誰だ、少佐って、更に混乱するスティルウェル。隙を突いて彼を倒し、混乱したまま警察へ行くが、相手にしてもらえない。業を煮やし、事態を整理しようと公園に行くと再びシーラに出会う。そして彼女の意味深な言葉に益々混乱してしまう。
呆然としながら、彼は偶然眼に入った探偵事務所のドアを叩く。中にいたのは暇そうにひとりでトランプに興じるキャセル(ウォルター・マッソー)だった。
仕事を依頼したい。一体、自分は誰なんだ・・・
良く出来たサスペンス・スリラー。
記憶喪失らしいが、誰もそれを信用してくれない。そして、何故か彼の周りで次々と死体がでるという話。巻き込まれ型のヒッチコック作品を意識した作りだ。
冒頭のタイトルから興味深い。クィンシー・ジョーンズの軽く甘いジャズの調べに乗ってニューヨークの街並みの夜景が浮かび上がる。まるでラブ・ロマンス映画のような出だし。
タイトルが終わった瞬間、ひとつのビル全体の灯りが消える。当時、ニューヨークの大停電が実際にあったので、ごく普通に「暗闇パーティーを再現しよう」と女性たちが主人公をナンパするといったコメディにでもなりそうなシーンが続く。ところがヒロインが登場して、いきなりサスペンス調になるのだ。
更に畳み掛けるように、ビルの年老いた守衛や仕事仲間らしい男、行きつけのバーのマスターの態度など、実に謎が謎呼ぶ展開になる。
ヴェテラン監督であるエドワード・ドミトリクの手腕が光る。でてくる役者も曲者揃いだ。
「大空港」シリーズのジョージ・ケネディや、間の抜けた小悪党を演じさせたら抜群に上手いジャック・ウエストン、「テキサスの五人の仲間」(1966)など、悪役から善人までこなすケヴィン・マッカーシーら全員が怪しい素振りを見せる。確かに、こういった映画ではそういう演出が定番ではあるのだが。
そんな登場人物の中で存在感バツグンなのが、しがない私立探偵を演じるウォルター・マッソーだ。彼は当時、この手の映画では悪役が多かったが、他方、コメディ役者としても頭角を現していた時期。本作では、どちらとも取れる演技が抜群の妙味を醸しだしている。悪役にも見えるし、どこかトボけていてしがない感じもする。
マッソーの登場シーンは「動く標的」(1966)のポール・ニューマン、「ロング・グッドバイ」(1973)のエリオット・グールドと並んで、探偵の登場シーンとしてはマイ・ベスト・スリーに入る。このキャラクターのままで主演作が作れると思ったほど。決して登場シーンは多くないが、ストーリィそのものより印象に残っている。
スリラーだけに内容を詳しくは紹介できないが、出だしから中盤までが非常に面白い。何故かと言えば、この手の映画が好きな人は、先読みをするのが大好きだろうし、様々な映画でだまされて来ているから、展開を追っていけば、ラストは想像つくかもしれないから。
それでも監督や役者があの手この手で盛り上げてくれるのも事実。ニューヨーク・ロケも白黒ながら綺麗だし、女性ファンにはヒロインが身に着けている宝石がティファニーというのも興味深いだろう。
作劇もさることながら、当時は上手い役者が揃っていたなと感じられる作品。