スタッフ
監督:ダリル・デューク
製作:ガース・H・ドラビンスキー
脚本:カーティス・ハンソン
撮影:ビリー・ウィリアムス
音楽:オスカー・ピーターソン
キャスト
マイルズ / エリオット・グールド
レイクル / クリストファー・プラマー
ジュリー / スザンナ・ヨーク
エレーン / セリーヌ・ロメズ
チャールズ / マイケル・カービィ
フランク警備員 / ショーン・サリヴァン
ウィラード刑事 / ケン・ポーグ
シモンセン / ジョン・キャンディ
ルイーズ / ゲイル・ダームズ
日本公開: 1979年
製作国: カナダ G・H・ドラビンスキー作品
配給: 富士、ジョイパック・フィルム
あらすじとコメント
引き続きサスペンス・スリラー。地味な作品ながら、病的な異常者がでてくる少しホラーがかった作品。
カナダ、トロント。出来たばかりのショッピング・センターにある銀行。出納主任のマイルズ(エリオット・グール ド)は、40歳を目前にして彼女もいない男。楽しみは毎月新しい熱帯魚を買い求め、飼育すること。そんなマイルズは銀行の同僚ジュリー(スザンナ・ヨーク)に好意を抱いているが、彼女は支店長と不倫中。クリスマスが近付いたある日。マイルズは二枚複写の出金票に『ポケットに銃がある。現金を全部よこせ』という文が写っているのを偶然発見する。驚いて、出金票を丸めるとポケットに入れた。
翌日、ショッピング・センター内でサンタクロースが募金をしていた。彼はサンタが掲げるポスターを見て愕然とする。昨日見つけた脅迫文の字とそっくりではないか。まさか、サンタが銀行強盗をするというのか。勤務に戻ると、やがてサンタがやってくる。確かに挙動不審だ。間違いない、奴は強盗だ。だが、子供に纏わりつかれ、渋々でて行くサンタ。
翌朝、マイルズは密かにブリキの箱を持ち込んだ。そして両替用の高額紙幣をそっと箱に隠し、以後も顧客が持ち込んだ高額紙幣だけを箱に入れ続ける。やがて、サンタがやってきた。差しだしてきた出金伝票には、前に見つけたのと同じ文面が書いてあった。慌ててレジの金をだすが、防犯ブザーが鳴り響く。金を鷲掴みにして、逃げだすサンタ。すぐにマスコミが駆けつけ、一斉に報道がなされる。「サンタの銀行強盗。被害総額は50000ドル」
一躍時の人になってしまったマイルズに、ジュリーの態度が変わった。所詮、人気者には弱いのか。そんな彼女を連れて帰宅すると突然、電話が鳴った。相手はレイクル(クリストファー・プラマー)だった。「俺の手元には1650ドルしかないぞ」息が止まるマイルズ。
俺の代わりに上手くやってくれたわけだな。さて、どうやって残りを俺に渡すんだ。パートナーさんよ・・・
畳み掛けるようなサスペンスが連続するスリラーの佳作。
真面目な銀行員が、いたずら心で起こしたちょっとした行為が、絶望的な恐怖へと変わっていく。とは言え、主人公にも後ろめたさがある。だから、ことを公にできない。そのジレンマが彼を更なる深みにはめさせていく。
先ず、着想が面白い。好きな同僚も上司と不倫中。しかも上司には顎で使われ、家族へのカモフラージュまで要求される。趣味は人知れずに飼っている熱帯魚。友人もいなくて、どこかネクラな感じがする。
そこへもってきて、脅してくる相手の性格が尋常ではない。些細なことでキレて、女性を血みどろになるまで殴り倒し、ナイフや拳銃を愛しそうに眺める。演じるクリストファー・プラマーが見事。目つき、話し方など本当に精神異常者という感じが滲みでている。
観客は最初から、彼がサイコ野郎という性格が刷り込まれているから、やがて、主人公に対する脅迫がエスカレートしていくだろうと想起させられる。そして、実際に身の毛もよだつ行為が繰り広げられていくのだ。主人公も犯罪に手を染めているから警察にはいけない。では、どうするのか。頭を使って反撃にでるのだ。その攻防戦が繰り返される。
ここで少しオタクっぽいキャラクター設定が生きてくる。オタク対サイコ野郎の構図が浮かび上がってくるのだ。その上、不倫中の同僚の女や、謎の女が絡んできて、物語は二転三転していく。
カナダのトロントという、映画ではあまり馴染みのない場所柄の寒さと、どこか無機質な街並みの冷たさが、静かだが、恐怖感に満ちた対決を際立たせていく。
ラストのオチも面白い。それもそのはず、脚本は「LAコンフィデンシャル」(1997)でアカデミー脚色賞を受賞したカーティス・ハンソン。「アダプテーション」(2002)、「イン・ハー・シューズ」(2005)など、現在も活躍中の実力派だ。
あまり日本公開されないが、カナダ映画にも面白い作品がかなりある。チャンスがあれば、それらも今後扱って行きたい。