その男ゾルバ – ZORBA THE GREEK(1964年)

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スタッフ

監督:ミカエル・カコヤニス
製作:ミカエル・カコヤニス
脚本:ミカエル・カコヤニス
撮影:ウォルター・ラサリー
音楽:ミキス・テオドキラス

キャスト

ゾルバ / アンソニー・クィン
バジル / アラン・ベイツ
未亡人 / イレーネ・パパス
マダム・ホーテンス / リラ・ケドロワ
マブランドニ / ジョージ・ファウンダース
ローラ / エレニ・アノウサキ
ミリトス / ソチリス・モウスタカス
マノカラス / タキス・エマヌエル
パヴロ / ジョージ・ヴォヤジス

日本公開: 1965年
製作国: アメリカ 20世紀フォックス
配給: 20世紀フォックス


あらすじとコメント

引き続きアンソニー・クィン。彼の代表作といわれる作品で、ギリシャ人という日本人にはあまり馴染みのない国民性を描く人間ドラマ。

ギリシャ、ピラエウス港。台風のため、クレタ島行の客船が出航延期になっていた。しかたなく近くのカフェで待つことにしたイギリスとギリシャ人のハーフの作家バジル(アラン・ベイツ)。彼は、亡き父が遺した亜炭鉱を再開しようと遥々、イギリスからやってきた。そこに、大男が土砂降りの外から、傘もささずに入ってくるとバジルの元へ近付いて来た。彼はゾルバ(アンソニー・クィン)と名乗り、気の良さそうな彼にふてぶてしく、自分を雇えと豪快に笑った。ゾルバの強引な売り込みに圧倒されたバジルは、根負けして頷いてしまう。

クレタ島に着いた二人は、バジルの亜炭鉱の管理人マブランドニ(ジョージ・ファウンダース)らの出迎えを受けるが、住む家がないので、とりあえずマダム・ホーテンス(リラ・ケドロワ)の経営するホテルに滞在することにする。もう老年に差し掛かった彼女は、元パリの高級娼婦で、昔の恋人たちとの想い出に浸って生きていた。そんな彼女に早速アタックするゾルバ。人生を幾つになっても謳歌しようとするバイタリティあふれるゾルバに、すぐに陥落するホーテンス。

早速仕事の準備を始めようと村の人々に会う二人。その折、マブランドニの息子パブロが、ひっそりと身を隠すように生活する未亡人(イレーネ・パパス)を熱烈に愛していることを知る。他にも村の男たちの多くが、彼女を狙っていた。

しかし、未亡人は村の男たちと違う、慎み深いバジルに惹かれたようだ。そのことを瞬時に見抜くゾルバ。内気なバジルを必死に焚きつけて・・・

紀元前から脈々と続く、ギリシャ人たちの狂気ともいえる人間性を浮き彫りにする骨太作。

何よりも主役を演じたアンソニー・クィンの豪快な迫力に圧倒される。クィンはメキシコ生まれだが、若い頃にでた西部劇での先住民から、アラブ人、イタリア人と数多くの歴史ある、誇り高き民族を見事に演じてきた俳優。本作でも、まったくもってギリシャ人に見える。

本作の主人公の豪放磊落さは、公開当時の宣伝文句が上手く表現している。『女を仕事のように愛し、苦難を酒のように好む!すばらしい疫病神の人間賛歌!』まさにその通りの人物だ。

女と見ると年甲斐もなく口説き、興奮するとパッション溢れるダンスを踊る。だが反省などしない。すべてを受け入れ、思いついたことをすぐに実行に移す。それが人生だとばか りに。実際、若い作家の男に、本を読んでも人生の問題は解決しない、と豪語し、自らの失敗は豪快に笑い飛ばす。

先行きを考えず、楽観的というか、刹那的というか、兎に角、その場しのぎ。腕力に自信があるからか、図々しく、ときとして相手を威圧的に押さえつける。そんな彼と対照的なのが、村の住人たちだ。

閉鎖的で自分たちの住む小さな村から一生でることもなく生涯を終える人生。代々、その繰り返しだ。そして、いびつな男尊女卑。他所者への冷酷なまでの無寛容さ。それは、ハーフの若き作家や元娼婦に留まらず、地元出身でないゾルバにも向けられる。小さな島という閉鎖的な空間ゆえか。ある意味、日本人の島国根性と呼ばれる民族性に相通じるものがあるのだろうか。

そういった排他的な民族性ゆえ、本作は実に暗い展開となる。そのあまりにも極端な閉鎖性ゆえ、進行に嫌悪感を抱く観客もいるかと思う。だが、本作の原作者、監督、音楽と皆ギリシャ人。

そのギリシャ人たちが三千数百年前の西ヨーロッパ文化発祥の地と呼ばれている自国の閉鎖的国民性を痛烈に描きだす。中々できることではないだろう。

特にカコヤニス監督は、冒頭ゾルバが登場するシーンで雨と風音という視覚と聴覚に訴える演出をしたり、暴風雨の中で連絡船の乗客たちを右往左往させたり、ヤギを追い掛け回すシーンなどで、やたらとカメラを振り回したりとコメディっぽい演出を試みている。しかし、それらは欧米の映画を見慣れていた観客には、多少の違和感を抱かせるのも事実。だからこそ、逆にギリシャ人という自負が見え隠れするのだが。

歴史ゆえの人間的不具合を、敢えて違和感と共に描く作風は好き嫌いがでるだろう。馴染みのない民族だが、個人的には昔の日本人に似ていなくもないと感じた。

古代のギリシャ悲劇にも通じる独特な世界観。豪快なダンスと印象的な音楽が今でも心の奥底で渦巻いている。

余談雑談 2007年5月26日
来週のTV番組表を見て驚いた。ここで数ヵ月後に扱おうと思っていた作品のオンパレード。5月28日(月)「終身犯」   ジョン・フランケンハイマー監督作品 24:50~29日(火)「突撃」     スタンリー・キューブリック監督作品  24:4