ザッツ・エンタテインメント – THAT’S ENTERTAINMENT(1974年)

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スタッフ

監督:ジャック・ヘイリー, jr
製作:ダニエル・メルニック
構成:ジャック・ヘイリー, jr
編集:バド・フリードゲン
音楽:ヘンリー・マンシーニ

キャスト(案内役として)

フレッド・アステア
ビング・クロスビー
ジーン・ケリー
ライザ・ミネリ
デビー・レイノルズ
ミッキー・ルーニー
フランク・シナトラ
ジェームス・スチュアート
エリザベス・テイラー

日本公開: 1975年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: 松竹、富士映画


あらすじとコメント

前回の「その男ゾルバ」で、印象に残る場面のひとつにダンス・シーンがあった。で、ダンスと言えば、真っ先に浮かぶのがこの作品。ため息の連続に、これぞアメリカの至宝だと感じる逸品。

有名な「雨に唄えば」という楽曲が4作品から映しだされる。続いてフランク・シナトラが画面に登場し、こちらに語りかけてくる。「映画制作会社は、独自の得意分野を持っていた。ギャングもの、ホラーもの。しかし、ミュージカルと言えば絶対にMGMだった」そして、サイレントから映画が音を持ったトーキーによって、映画製作形態が激変し、ちゃんと台詞の言える舞台役者や歌って踊れる人間が必要になり、そのほとんどはブロードウェイから引っ張ってこられた、と。やがてトーキーの魅力を際立たせるのはミュージカルだと確信したMGMは数多くの関連作品を発表した。

以後、次々と初期の単調なレヴュー映画から、大がかりな作品までが、当時を知る大スターたちによって紹介されていく・・・

映画、特にミュージカルを知る上で、絶対に見逃してはいけない大傑作。

映画がどれほどの娯楽であったか。そして、それを作るにあたってどれほどの才能と努力があったか。

タモリのように、ミュージカルが嫌いという御仁もいるだろう。確かに、恋人たちが突然、街中で歌って踊りだすということは現実では絶対あり得ないし、もしあったら、白い眼で見られるだろう。だが、だからこそ、映画としての楽しさがある。まさしく、タイトルのように『これが娯楽』なのである。

ミュージカルといえばMGM。本作では200本以上作られた中から厳選された67本が登場する。当時、看板俳優だったジーン・ケリーが歳を召して、現在では使われなくなった荒れ果てたNYのセットに登場し、ダンスの神様フレッド・アステアを称える。逆にアステアが、かつて自身が出演し、現在は朽ち果てた列車のセット前で盟友ジーン・ケリーの作品群を紹介する。

その豪華絢爛なる歴史に呆然とし、涙するのだ。何よりも編集が素晴らしい。

数多くの制作作品から、良い所取りをしている。

ハリウッドのキングといわれたクラーク・ゲイブルが唄って踊る。セクシー・シンボルのはしりのジーン・ハーロウがお世辞にも上手いと言えない唄と踊りを披露する。大スターだったケーリー・グランドやジェームス・スチュワートが歌う。信じ難い規模のプールで人魚のように舞うエスター・ウィリアムスがいる。今では、大リーグ中継で流れる「私を野球に連れってて」の歌を知ったのもこの映画だ。

大好きなスイング・ジャズやスタンダートの曲が魅力たっぷりに綴られていく。しかも白黒からカラー、画面サイズもスタンダードやワイドと作品ごと縦横無尽に変化する。その陶酔感。その見事さ。

だが、この映画を本当に懐かしく楽しめたのは、戦前からの筋金入りの映画ファンだろう。公開当時、淀川長治や双葉十三郎や野口久光といったヴェテランの映画評論家たちがどれほど興奮したことか。逆に戦後派の評論家たちは話には聞いていたが、実際に見たことがない映画の名場面に感動し、陶酔した。更には、ヴェテラン評論家たちも日本未公開の作品が登場すると喝采した。

自分自身は、MGMミュージカルの全盛期を一切知らず、たまにTVでズタズタにカットされたものを見たぐらいで、まったくの初体験だった。しかし、劇場で見た当時の興奮は今でも忘れられない。

本作は東京では丸の内ピカデリーで公開された。公開二日目の日曜日に早朝から並んだ。現在と違って各回完全入替制ではなく、日曜の第一回目上映は全席が自由席だった。普通なら、見やすい指定席に真っ先に陣取るのだが、本作は違った。先ず、自由席から埋まったのだ。続いて初回のみ自由の指定席が埋まり、上映開始のときには既に立ち見客がでた。上映ブザーが鳴り、鈍い巻き上げの機械音と共に緞帳が開きながら、館内が暗くなる。胸が高鳴った。オーヴァーチェアが流れ、銀幕に赤いカーテン地の画面が映しだされ、タイトルが金文字ででた。その興奮。

そして、話には聞いていたが、一生見ることが出来ないと思っていたダンス・シーンや唄が次々と登場し、それが終わるごとに劇場内で割れんばかりの拍手が起き、知っている唄が登場すると一緒に口ずさんだ。まるでライブ会場のような異様な盛り上がりだった。初めて大画面で見るアステアのタップの軽快な音に酔いしれ、雨の中で歌い踊るジーン・ケリーに呆然と見とれた。エクスタシーの連続だった。

2時間10分の陶酔が終わり、割れんばかりの拍手と共に劇場が明るくなった。そのときは途中入場してきた観客で、場内は出入口から通路まで立錐の余地がないほど混んでいた。立見客は席を探そうと一斉に周りを見廻した。しかし、辞したのは指定席の客の他に20人ほどだった。立見客の間で、ざわめきが起きたのを今でも鮮明に覚えている。

他の観客は一回で帰らないつもりで早朝から並んでいたのだ。かくいう自分もそのひとりだったのだが。結局、その日は三回観た。

現代のようにビデオやDVDで簡単に、自宅で繰り返し見られる時代ではなかった。しかも幻といわれていた名人芸や曲彩色のスペクタクル・シーンが大画面で見られるのだ。鳥肌が立ち、感涙にむせぶ。それを見ず知らずだが、映画ファンという共通の人間たちと共有する至福の時間。

映画とは娯楽でもあり、芸術でもある。確かに様々な側面を持った媒体である。しかし、本作に関してはハッキリと断言できる。

映画とはこれほど見る人をハッピーにするのだ!

劇場では再見できないかもしれない。だが、家庭のテレビ画面で見ても、満ち足りた幸福感に酔える。未見の人は是非ビデオ屋に走っていただきたい。

そして、映画が映画であった時代、本当の職人や各分野にプロフェッショナルが存在していたことを目の当たりにして欲しい。

余談雑談 2007年6月2日
このところ東京は寒暖の差が激しい。晴れ間が見えたと思うとスコールのような雨が降る。「雨季」という表現が似合う感じだ。 また面白いのは、真夏のような日差しが降り注ぐが、湿気がない所為か日陰などは涼しいのだ。それが妙に心地良かったりする。東京で