いつも上天気 – IT’S ALWAYS FAIR WEATHER(1955年)

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スタッフ

監督:ジーン・ケリー、スタンリー・ドーネン
製作:アーサー・フリード
脚本:ベティ・コムデン、アドルフ・グリーン
撮影:ロバート・ブローナー
音楽:アンドレ・プレヴィン

キャスト

テッド / ジーン・ケリー
ダグ / ダン・ディリー
ジャッキー / シド・チャリス
マデリーン / ドロレス・グレイ
アンジー / マイケル・キッド
ティム / デヴィッド・バーンズ
チャーリー / ジョイ・C・フィリッペン
ジム・アシスタント / フィル・アーノルド
スタンパー夫人 / マッジ・ブレイク

日本公開: 1955年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM


あらすじとコメント

引き続きジーン・ケリー出演のミュージカル。TVがメインという先見性を感じる展開のなか、彼の見事なる踊りが堪能できる。

1945年ニューヨーク。第二次大戦が終わり、凱旋帰国したテッド(ジーン・ケリー)、ダグ(ダン・ディリー)、アンジー(マイケル・キッド)の戦友三人。彼らは出征前に常連だった『ティムズ・バー』に顔をだす。

すると店にはテッド宛の手紙が届けられていた。その手紙は付き合っていた恋人からだった。帰国があまりにも遅いので別な男と結婚した、と。弁護士になり、ゆくゆくは政治家を目指していたテッドは意気消沈。見かねたダグとアンジーは10年後の今月今夜、きっと状況が好転しているから、ここで再会しよう彼を励ました。

そして10年後。テッドは弁護士をあきらめ、ボクシングのプロモーターになって、ちょっとした町の顔役になっていた。ダグは某テレビ局のシカゴ支局の重役になり、アンジーは田舎で妻と5人の子供を養うため、レストランとは名ばかりの店でハンバーガーを作る毎日だった。彼らは半信半疑ながら約束を守り、『ティムズ・バー』で再会。ダグが手配したNYでも最高のレストランに行くが、年月が彼らの気持ちを湾曲させ、皆が会わなければ良かったと反省してしまう。

そこにダグの上司が女流放送作家ジャッキー(シド・チャリス)を伴って現れる。テッドはたちまち才色兼備なジャッキーに惹かれる。彼女はこの後、マデリン(ドロレス・グレイ)がMCを勤める人気番組のリハーサルに顔をだすと言う。それを聞き、ダグは何とか雰囲気を変えようとテッドたちを誘う。現場に着くとマデリンは今夜の内容がくだらないと激怒の真っ最中。そこでジャキーは、アイディアをだす。「かつての戦友が10年ぶりに再会する、ってのはどうかしら」

しかし、気まずい彼らが簡単に同意するわけもなく・・・

いかにも絶頂期のMGMミュージカルの一本。

前回扱った「雨に唄えば」(1952)から引き続き、ジーン・ケリーとスタンリー・ドーネンの共同監督。そして相手役に「雨に唄えば」にゲスト出演していたシド・チャリスを抜てき。更に振付師として有名なマイケル・キッドを出演させ、どこか越路吹雪に似た新人ドロレス・グレイを持ってきた。

本作で特に面白いと感じたのはストーリィのメインとなるのがテレビという点。大衆の娯楽だった映画が、やがて取って代わられる媒体である。また、彼らを出演させようとする番組のスポンサーが家庭用クレンザーの会社で、アニメのイメージ・キャラクターや生CMが入るバラエティ番組というのも興味深い。いまだにその流れを汲むワイドショー的番組も多い。

更に、主役のケリーが巻き込まれる陰謀を解決するのに、セットの片隅で脅迫されている彼の背後にカメラを移動し、生放送中の全国ネットで周知させるというのも先見性がある設定といえるだろう。

また、現代でも人気のある職業の放送作家を頭の回転が速く、雑学博士でもあるという扱いも今見ても充分に通用する設定。その上、それが女性というのもいかにもアメリカ的である。

逆に映画として、ワイドスクリーンを三分割させ、主人公たちの心情を別個に描くといった手法や、敢えてテレビ画面のようにサイズを縮小したりといったこだわりも見せている。これは共同監督であるドーネンの発想なのか、それともケリーの意向なのだろうか。

しかし、このジーン・ケリーという役者は骨格が良く、タフな印象で、明朗快活だが、どこか垢抜けないというイメージを持っている。別な言い回しだと魚河岸のアンチャンという感じで、サーカスのアクロバティックなピエロという雰囲気もある。

だが、本作では、そんな彼の魅力が爆発するナンバーがでてくる。「I LIKE MYSELF」である。このミュージカル・シーンでケリーはローラー・スケートを履いて歌い踊る。驚愕するのは当時のローラー・スケートはプラスティックでなく、すべてが鉄製。いったい片方だけで何キロあるのだろうか。しかもストッパーもついてない。それで軽やかにタップを踏み、滑ってジャンプして、さっと止まる。とても人間業とは思えない。見ていて鳥肌が立った。しかも、上半身は微動だにせず、手足だけが別の生き物であるかのように踊るのだ。やはり、曲芸師というか、軽業師というイメージが強く印象付けられた。

他には冒頭のミュージカル・ナンバーで、鉄製のゴミ箱のフタを片方の足にだけ付けて、体重を乗せ、唄い踊るという芸当をやって見せる。いやはや、常人ではない。

残念なことに本作はかつてレーザー・ディスクがでていたぐらいで、ビデオやDVDは国内発売されていない。しかし、このローラー・スケートのシーンは「ザッツ・エンタテインメントPart2」(1976)で見ることができる。

まさにMGMを代表するミュージカル・スターとしてジーン・ケリーが最高だと推する人も多い。しかし、そんな彼と対極のミュージカル・スターもいる。さて、それは。

次回のお楽しみということで。

余談雑談 2007年6月16日
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