スタッフ
監督:ウィリアム・ワイラー
製作:ウィリアム・ワイラー
脚本:フィリップ・ヨルダン、ロバート・ワイラー
撮影:リー・ガームス
音楽:レオン・ベッカー
キャスト
マクロード刑事 / カーク・ダグラス
メアリー / エレノア・パーカー
ブローディ刑事 / ウィリアム・ベンデックス
スーザン / キャシー・オドネル
ディキス刑事 / バート・フリード
モナハン署長 / ホレス・マクマホン
万引き女 / リー・グランド
フェインスン記者 / ルイ・ヴァン・ルーティン
ジェニニ / ジョセフ・ワイズマン
日本公開: 1953年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
今回もカーク・ダグラス主演作。これも素晴らしい出来。なぜなら監督は見事な力量の持主ウィリアム・ワイラーだから。
アメリカのNY。西47丁目にあるニューヨーク市警第21分署。とある夕暮れ時、刑事部屋に万引き女(リー・グランド)が連行されてきた。逮捕したディキス刑事は調書を取ると夜間裁判開廷までここにいるように命じた。
警察番の新聞記者フェィンスン(ルイ・ヴァン・ルーティン)がネタ探しにやって来ると、弁護士が厳しい顔でモナハン署長(ホレス・マクマホン)に面会に来た。理由はマクロード刑事(カーク・ダグラス)から出頭命令がでている依頼人の対応についてだった。どうやらマクロードは暴力を伴う捜査をしそうなので厳重に監視して欲しいとのことだった。しかも彼は自分の依頼人に対して特別な感情があると公言し、もし何か起きたら控訴すると付け加えた。
そのマクロードは勤務先の金を横領した青年キンドラー(クレイグ・ヒル)を連行してくると署の入口に彼の妻メリー(エレノア・パーカー)が待っているのを認めた。2日も帰宅しない夫を心配してのことだった。マクロードは、今日は後一時間で帰宅できると言ってそっとキスをした。刑事部屋に戻り、キンドラーの取調べを始めると強盗に入ったジェニニ(ジョセフ・ワイズマン)とアボットの二人組が連行されてきた。一気に刑事部屋は慌しくなった。
署長はマクロードを呼び、弁護士の件を話すが、特別な感情はない、の一点張りだった。しかし、彼が出頭命令をだした闇の堕胎医が来ると、顔つきが一変した・・・
警察内で起きる数時間の出来事を描く群像ドラマの傑作。
邦題は『探偵』であるが、この場合の「DETECTIVE」は『刑事』である。つまりは誤訳ということになる。公開当初は私立探偵が活躍する作品と一部で誤解された。
監督は真の名匠ウィリアム・ワイラー。ここでは初登場である。奇を衒うような作品は少なく、いわゆるオーソドックスな手法を得意とするが、その写実性と間違いのない演出力で数々の傑作、佳作を産みだしている。「我等の生涯の最良の年」(1946)、「ローマの休日」(1953)、「必死の逃亡者」(1955)、「ベン・ハー」(1959)、「噂の二人」(1961)「コレクター」(1966)など、実に多岐に渡る作品群で、どれも印象深いものばかりである。
本作のオリジナルはブロードウェイの大ヒット戯曲。いかにも舞台作らしくほとんどが刑事部屋とそこに隣接する署長室や資料室、取調室だけで進行する。
登場人物もかなり多いが、ワイラーの確かな手腕とイメージが混乱しない人物設定を自分の役柄を理解し演じる俳優陣によって見事なアンサンブルで奏でられていく。冒頭は様々な人物が次々と登場し、性格設定や複数の事件に関して交通整理的な進行をしていくが、徐々にそれが見事に絡み合っていく展開となる。
戦争で勲章まで受けた好青年が窃盗で捕まって連行されてくる。更には情緒不安定な万引き女、想像癖が強く、隣で核爆弾を作っているとやって来る孤独な老婦人。初犯だから勘弁してくれと気弱そうに呟く強盗の二人組。
数多い登場人物の中で、やはり主役のダグラスの強烈なキャラクターが目立つ。粗暴だった父を反面教師として熱血正義漢の刑事になった男だ。ゆえに些細な悪も許さない。だから窃盗事件を起こした初犯の好青年と彼を慕う娘を見て、許してやれと言うヴェテラン刑事の助言に、そうゆう奴が再犯するのだと真っ向反論する。主役としては、いささか感情移入できない設定だ。
映画は中盤から、それまで張り巡らされていた伏線が一気に浮かび上がり、息をもつかせぬ展開となる。アクションに頼らない台詞劇だが、緊張感が支配していくのだ。狭い刑事部屋の中で、やがてそれぞれのキャラが見事に昇華していく。見事と言う他ない展開と作劇の妙に固唾を呑んだ。
以後作られる、数多くの刑事ドラマに強い影響を与えた傑作である。