暗くなるまでこの恋を – LA SIRENE DU MISSISSIPI(1969年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ

監督:フランソワ・トリュフォー
製作:マルセル・ベルベール
脚本:フランソワ・トリュフォー
撮影:ドニース・クレルヴァル
音楽:アントワーヌ・デュアメール

キャスト

ルイ / ジャン・ポール・ベルモンド
ユリー / カトリーヌ・ドヌーヴ
コーモリ / ミッシェル・ブーケ
ベルト / ネリー・ボルゴー
ジャルディン / マルセル・ベルベール
リシャール / ローラン・ティノ


日本公開: 1970年
製作国: フランス デルフォス・プロ作品
配給: ユナイト


あらすじとコメント

ベルモンド主演作でつなげてみた。当時大人気だったカトリーヌ・ドヌーヴとの初共演で監督は映画評論家出身のトリュフォーだ。

南アフリカの東にあるインド洋。マダガスカルに程近いフランス植民地であるレ・ユニオン島。そこで煙草工場を営むルイ(ジャン・ポール・ベルモンド)は、文通だけで結婚相手を決めた。

その許婚者は連絡船ミシシッピ号で到着するはずだった。港で彼女の写真を片手に待つルイ。しかし、彼女は乗船していなかった。誰ひとりいなくなった港で突然、声を掛けられる。「私がネリーです」そう言った相手(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、写真とはまったくの別人で、とびっきりの美人だった。「貴方を信用できなくて、別な人の写真を送ってしまったの。でも、真実を言うチャンスを逸してしまって」思いの外、美人なのでルイは有頂天になる。彼らはすぐに結婚式を挙げるが、彼の会社の部下ジャルディン(マルセル・ベルベール)は、そんな二人に不安を覚えた。

やがてネリーの魅力に完全に参ってしまったルイは銀行口座を妻との共同名義にしてしまう。そんな折、ネリーの姉からルイ宛に手紙が来る。『そちらに渡って随分経つのに、一度も連絡を寄こさないのは何故か』不安に駆られたルイは慌てて自宅に戻るが彼女の姿はなく、その上、銀行の預金もほとんど全てが下ろされていた・・・

ミステリアスな展開からいびつな恋愛ドラマへと変貌していく不思議な作品。

南アフリカ近くの小さな島で生まれ、ずっとそこで仕事一筋に生きてきた男が嫁探しをする。当然、恋愛には疎い。

日本のようにお見合いや結婚斡旋システムがない場所では、自分の人柄や価値観、相手に望むことを数行にまとめ、海外の新聞などに個人広告をだして相手を探す。

また、彼が生まれ育った島は、昔から入植者は男ばかりで結婚相手として島に来た女性のほとんどが孤児や元娼婦だったという歴史を持つ。主人公もその流れを汲む末裔なのだ。

そこを理解しないと、本作は成立しない。なぜなら設定は現代であり、それこそ移動手段には飛行機もあれば、テレビといった情報も多いからだ。それを一度も会わずに、文通のみで結婚を決める。島の歴史や先人たちの習慣なくしてあり得ない設定なのだ。そんな主人公の前に写真とまったく違う、絶世の美女が現れる。

しかし、持参したトランクの鍵を無くしたと開けようとしない。その上、サイズを聞いて買った結婚指輪が入らない。わざわざ実家から持参したカナリヤが死んでも動揺しないといったミステリアスな展開となる。

もしかして、別人ではないのかと見る者に感じさせるのだ。このあたりのタッチは完全にトリュフォーが傾倒していたヒッチコックの影響が見える。

その証拠のひとつとして、本作の原作が挙げられるだろう。作者はウィリアム・アイリッシュ。ミステリーを得意とする作家だ。ヒッチコックの「裏窓」(1954)の原作者でもあり、トリュフォーは本作の前に「黒衣の花嫁」(1968)も映画化している。

映画はやがて観客の想像通りのストーリー展開となる。では、本当の花嫁はどうなったのか。主人公が金と女を捜しに南フランスに行くあたりから、映画はガラリと変調する。二部構成の趣である。ヒッチコックの「めまい」(1958)や「サイコ」(1960)と同じだ。

しかし、この変調は好き嫌いがハッキリと分かれよう。ドヌーヴの調査を依頼した探偵も絡んできて、場所も南仏から、雪深いスイスへと北上していく。つまり、登場人物たちの心と同じように開放的なインド洋の熱帯から、どんどん寒くなっていくのだ。後半は人間の複雑な感情の機微を描く展開になる。

そういった人間像に感情移入できるかどうかが鑑賞の分かれ目になるだろう。途中から、別な映画を見ているような感覚に陥るが、監督の演出トーンは一貫している。そこにトリュフォーの評論家出身のシビアだが、確かな視点が垣間見られる。

ここでトリュフォー作品を扱うのは初めてだが、トリュフォー未経験者は本作以外から入るほうが良いかもしれない。

でないと、彼が受け入れ難い作家になってしまうかもしれないから。

感性は人それぞれなので、一概には言えないが、例えば、日本映画の名匠成瀬巳喜男監督に興味を持ち、彼の数ある佳作、秀作の中で代表作「浮雲」(1955)から入ると違和感を抱いてしまうのに近い感覚と言えるだろうか。

シニカルだが暖かい視点で人間を見つめるトリュフォー。そして師と仰ぐヒッチコックの影。相反する内容を融合しようとした異色作と位置付けする。

余談雑談 2007年11月3日
今更ながらネットの便利さに驚いている。欲しいDVDの名前を入力すると、ネット・ショップの価格の安い順に表示されるサイトがあり、中古品まで価格順に教えてくれる。 誰かが、出品されるたびに乗せたいサイトに一々、入力しているのだろうかとアナログ人