太陽がいっぱい – PLEIN SOLEIL(1960年)

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スタッフ

監督:ルネ・クレマン
製作:ロベール&レイモン・アキム
脚本:ポール・ジェイコブ、R・クレマン
撮影:アンリ・ドカエ
音楽:ニーノ・ロータ

キャスト

トム / アラン・ドロン
フィリップ / モーリス・ロネ
マルジェ / マリー・ラフォレ
ポポヴァ夫人 / エルヴィール・ポペスコ
リコルディ刑事 / エルノ・クリーザ
オブライエン / フランク・ラティモア
フレディ / ビル・カールンス
ジアンナ / アヴェ・ニンキ
ベルギー女 / ヴィヴィアン・シャンテル

日本公開: 1960年
製作国: フランス アキム・プロ作品
配給: 日本ヘラルド映画


あらすじとコメント

久しく続いたジャン・ポール・ベルモントから離れ、当時、日本では彼以上に大人気だったアラン・ドロン。その彼の名を不動のものにさせた映画史上の名作の一本。

イタリア、ローマ。貧しい出のアメリカ人青年トム・リプリー(アラン・ドロン)は、金持ちのボンボン、フィリップ(モーリス・ロネ)をアメリカに連れ戻せば5千ドルをやると彼の父親に言われ、喜び勇んでイタリアへやって来た。だが、トムは彼の分まで一切を支払って金に糸目をつけぬフィリップとの放蕩三昧に溺れてしまう。しかし、このままでは5千ドルがフイになると心配したトムは、夏休みが終わる9月には帰国すると、嘘でも良いから連絡してくれと頼んでいた。だが、フィリップはトムのことを蔑むように軽くあしらう。複雑な感情が渦巻くトム。

そんな折、フィリップは友人から、来週シチリア島で会おうと誘われ、恋人のマルジェ(マリー・ラフォレ)とトムの三人で、買ったばかりのヨットで向かうことにする。だが、航海中も暴君のように振舞うフィリップに嫌気がさしたマルジュは下船すると言いだし、途中で彼女を下ろすことになった。

トムとフィリップは男二人だけで航海を続けるが・・・

貧しく卑しい青年の恐ろしい欲望を描く名作。

映画とは監督のものと言われることが多いが、傑作とは、スタッフ、キャストなどの才能が見事に絡み昇華するというアンサンブルの結果であると証明した作品でもある。

ルネ・クレマン監督の見事としか言いようのない演出。例を挙げれば、ヒロインが登場する場面での、左手でギターの弦を押さえるアップから微妙に動く弦を横移動し、爪弾く右手までを写し、そのまま上へ移動するカメラ。さあ、いよいよヒロインの顔が映ると思わせておいて、いきなり眼のアップに転換するといった絶妙な外しのテクニック。また、洋上での男二人だけの場面で起きる戦慄のシーンでの台詞のない、映像と波と風の音のみで表現する、これぞ映画の表現という鳥肌の立つシーンなど、監督の才気がほとばしっている。

他にも、南イタリアの古ぼけて小汚い外装とは真逆の洒落てモダンなインテリアで装われた内部によって浮かび上がる人間自身が持つ心の表裏との対比。更には、ボンボンが身につける派手なストライプ柄のジャケットや真っ白な靴。ナイフ、イヤリングといった類の小物の扱い方も見事だ。

そういった監督の意思を見事に具象化するアンリ・ドカエの不思議と寒々しささえ感じさせる真夏の陽光や紺碧の海。フェリーニ等のイタリア映画のときとは微妙に違うニーノ・ロータの忘れがたい音楽。主人公たちが抱える心の闇と不安定さを滲ませる若き主演陣の演技にも惹きつけられる。

それらが渾然一体となって奏でる交響曲の趣がある。冒頭、盲目の物乞いから白い杖を高額で奪うように買取り、有閑マダムをナンパする不道徳きわまるシークエンスから、やがて高慢な金持ちボンボンに翻弄されながら、メラメラと成り上がりたいという炎が燃える貧民出の青年。

美青年ゆえの冷たい眼の輝き。そして、その奥底で底光りする野望。その野望を遂行するために手段を選ばなく突き進んでいく恐ろしいほどの冷徹さ。

これを書くにあたり再見したが、主役のアラン・ドロンが誠実な人間と自称し、結局、恐喝容疑で逮捕された羽賀研二に見えてしょうがなかった。うがった見方かもしれない。だが、見ていくにつれ、その印象が強まった。結果、ヒロインのマリー・ラフォレまで、梅宮アンナに見えてきたほど。

少し内容について触れれば、主役のドロンは海が苦手というシチュエーションが物語を左右していく。そんな彼らが乗るヨットの名前が『ミラージュ』。「蜃気楼」である。そして、何が『太陽がいっぱい』なのか。

やはり、映画好きは避けて通れない作品の一本であることは間違いない。

余談雑談 2007年11月24日
先週ここで書いたこともあり、早速「ALWAYS 続・三丁目の夕日」を見てきた。平日の昼間ということもあって、客層の7割が六十代以上だった。ほとんどが当時を知っていると思しき年代。みな、昔を思い出したいと期待感を滲ませていた。 作品自体は、前