現金に手を出すな – TOUCHEZ PAS AU GRISBI(1954年)

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スタッフ

監督:ジャック・ベッケル
脚本:アルベール・シモナン、モーリス・グリッフ
ジャック・ベッケル
撮影:ピエール・モタルゼル
音楽:ジャン・ウィエネー

キャスト

マックス / ジャン・ギャバン
リトン / ルネ・ダリイ
ジョジー / ジャンヌ・モロー
ローラ / ドラ・ドル
アンジェロ / リノ・ヴァンチュラ
ピエロ / ポール・フランクール
マリネット / ギャビー・バッセ
マルコ / ミッシェル・ジュールダン
フィフィ / ダニエル・コシイ

日本公開: 1955年
製作国: フランス デル・デュカ作品
配給: 外国映画社、映配 共同配給


あらすじとコメント

前回でドンを堂々と演じたジャン・ギャバン。戦前から活躍するフランス映画界きっての大御所だが、戦後、日本で公開された主演作で一番有名な作品。

フランス、パリ。オルリー空港で5千万フラン相当の金塊が盗まれた。しかし、警察はあまりにも鮮やかな手口ゆえ、犯人を特定できないでいた。

実はパリの下町に住む暗黒街の一匹狼のマックス(ジャン・ギャバン)と20年来の親友リトン(ルネ・ダリイ)による犯行だった。マックスはほとぼりが冷めるまで、素知らぬ顔で時が過ぎるのを待っていたが、リトンがお気に入りの踊り子で何とか口説きたいと狙っていたジョジー(ジャンヌ・モロー)に、自分たちの犯行だと漏らしてしまう。だが、そのジョジーはギャングのボス、アンジェロ(リノ・ヴァンチュラ)の愛人だった。

その情報を得たアンジェロは、横取りすべく別々に住む二人を襲う。だが、マックスは機転で難を逃れ、すぐさまアンジェロの訪問を受けていたリトンを救いだす。二人はその足でマックスの隠れ家に逃げ込んだ。ことの次第をリトンに詰問するマックス。若い女などに入れあげて、自分もヤキが廻ったと反省するリトン。マックスは、こうなれば一刻も早く金塊を現金化しようと動きだす。

一方、リトンは単身ジャジーの元へケリを付けに向かうが・・・

フィルム・ノワール映画の行く末を決定付けた佳作。

邦題の「現金」は「げんきん」でなく『げんなま』と読む。完全なる当て字だが、本作のヒットで以後、この「現金」とつく題名はほとんど『げんなま』と呼ばれるようになった。

キューブリックの「現金に体を張れ」(1956)、ジェームス・コバーンのでた「現金作戦」(1966)などから、日本映画やTVドラマに至るまで数多くある。それだけ『柳の下のどじょう』が狙われたほどヒットした作品でもある。

ストーリィとしては暗黒街に生きる中年男の生き様を義理と人情を交えて描いていく。主人公は、寄る年波を考えて今回の仕事を最後に引退しようとしている。しかし、相棒はいい歳をして若い女に入れあげた結果、ギャングに拉致されてしまう。

アイツと組んだのが間違いだった、と独白する主人公。かといって、このまま見捨てる訳にはいかない。

主人公は目をかけていた若者と昔馴染みの仲間にそれとなく声をかける。

この展開で往年の日本映画ファンならお解かりだろうが、一時期、量産された東映の仁侠映画とまったく同じである。もっとも、東映が本作の真似をしたのだが。つまりは当時の日本人が大好きだった男の世界である。

金や色恋よりも友情を取る。多くは語らないが、眼と眼で理解し合う『あうん』の呼吸。そういった哀歓漂う場面で、大ヒットした「グリスビーのブルース」が哀愁たっぷりのハーモニカ演奏で被さる。

何よりも主役を演じたジャン・ギャバンのいぶし銀の魅力が炸裂している。常に体にフィットしたダブルのスーツを着こなし、女にモテて、ふてぶてしくてタフな印象。確かに体の切れは悪いが、それが引退を考える歳になっていると推察できる設定だ。

元来、上手い役者ではないのだが、抜群の存在感があり、眼の演技や独特なゆっくりとした台詞回しなど、見事な貫禄を見せ付ける。しかし、彼の一番の魅力は『食べ方』であると感じている。小さく食べ物を口に入れ、顔の表情を変えずに口元だけがセクシーに少し動く。これほど食べるシーンが魅力的な俳優を他に見たことがない。

また、本作は以後のフランス映画の大スターが新人として二名出演している。ひとりは若いダンサーを演じたジャンヌ・モロー。本作の三年後「死刑台のエレベーター」(1957)で大スターの仲間入りをする女優だ。

もうひとりは大好きな大好きなリノ・ヴァンチュラ。本作が映画初出演。元グレコ・ローマンのレスリングチャンピオンからの転進で、当時、既に35歳だった。かなり遅咲きのデビューである。手元のパンフレットには、まだ先を決めかねていたのか、ヴァンチュラではなく、リノ・ボッリーニという名前で載っている。以後、しばらくはギャング映画での脇役が続くが、やがて渋くてチャーミングな俳優へと変貌していく。

本作自体は時代性もあろうが、女性を平気で引っ叩いても、それが男らしいという描き方など、いささか現代では通用しないと思しき場面もでてはくる。

それでも犯罪映画としてはエポック・メイキング的な作品である。

余談雑談 2007年12月8日
ついこの前、朝から近所に住む母親の家に御機嫌伺いに行った。大した用も無いし、お小言も頂戴したので、すぐに辞した。 で、常に寒風が吹く財布をいたわる気持ちで近くの中華屋で550円ランチを食べようと決めた。だが、11時の開店まで30分以上も間が