ヘッドライト – DES GENS SANS IMPORTANCE(1956年)

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スタッフ

監督:アンリ・ヴェルヌイユ
製作:コシノール、シャイヨ、アルデンヌ・プロ
脚本:フランソワ・ボワイエ、A・ヴェルヌイユ
撮影:ルイ・パージェ
音楽:ジョセフ・コスマ

キャスト

ジャン / ジャン・ギャバン
クロチルド / フランソワーズ・アルヌール
ベルティ / ピエール・モンディ
ソランジュ / イヴェット・エティエヴァン
バルシャンドウ / ポール・フランクール
ジリエ / ロベール・ダルヴァン
ジャクリーヌ / ダニ・カレール
フィリップ / マックス・マギィ
マダム・ジャコプロス / リラ・ケドロヴァ

日本公開: 1956年
製作国: フランス コシノール・フィルム作品
配給: 新外映


あらすじとコメント

引き続きジャン・ギャバン主演作。だが犯罪モノではなく、切ないメロドラマ。

フランス、ボルドー近郊。長距離トラックの運転手ジャン(ジャン・ギャバン)は、連日、悪天候や睡魔と戦いながら、同僚のベルティ(ピエール・モンディ)と交代で運転を続けていた。そんな彼等が決まって休憩するのが、一番近くの町から40キロも離れた場所にポツンと建つ給油所兼旅籠の「キャラヴァン亭」。

とあるクリスマス・イヴ。疲労困憊でキャラヴァン亭にたどり着くと、新しいウェイトレスのクロチルド(フランソワーズ・アルヌール)がいた。しかし、そこは場末ゆえ何の楽しみもないので、始終若い女性ウェイトレスが入れ変わる店だった。どうせ彼女も長続きしないだろうと感じたが、妙に惹かれるものがあった。ジャンはパリの下町で、妻と三人の子供と暮らしていたが、生活に疲れて自分に無関心な妻と、女優を夢見て反抗的な思春期の長女などがいて心休まる場所ではなかった。

そんな彼が、再びキャラヴァン亭に立ち寄るとクロチルドが荷物をまとめていた。案の定、長続きしなかったのだ。彼女は仕事が見つかるまで、母親の実家に身を寄せようとジャンのトラックに同乗を申しでる。彼は黙って頷いた。

しかし、クロチルドは年下の男と再婚した母親に同居を断られ、道端で休憩していたジャンのところに戻ってくる。

また、乗せてくれる?・・・

疲れた初老の男と幸薄い若い女の切ない不倫ドラマ。

ありふれた題材を静かに見据え、淡々と追っていく。確かに、まどろっこしい展開だし、現在とは価値観もかなり違うので、つまらないと感じる人も多いだろう。

だが、ギャングや刑事役の多かったギャバンが演じる、疲れた普通の中年男には哀愁が漂っているし、若くてどこか冷めてはいるが、一度恋の炎が付くと直情的になるアルヌールの不思議な魅力も素晴らしい。

また、たまにしか帰ってこない亭主をあきらめながら、子供たちの面倒を見ることに疲れた妻や、女優を夢見ながらも思春期特有の父親への反発を露わにする長女など、下層労働者たちの寂れた生活感が上手く表現されているなと感じた。

中でも、登場時間は少ないが、アルヌールが働くことになる曖昧宿の女主人を演じたリラ・ケドロヴァの人生の裏を知り尽した妖艶な冷たさと、達観し開き直った中年女役は見事。ここで扱った「その男ゾルバ」(1964)、「海賊大将」(1965)同様、直接的には語られないが、間違いなくいびつな過去を持つと思わせる怪しげな雰囲気を醸しだしている。

映画自体は、不倫関係になってから、お互いがどんどん不幸な境遇に陥っていく姿を描いていく。なんとも陰湿で切なくなる展開。

だが、これこそが当時のフランス映画が得意とした流れだ。人間の心の奥底に秘める思いをしっとりと描きだしながら、人生とは何とも皮肉的であるという方向に向かう手法。明るく素直に解りやすくというウェルメイ ドなハリウッド映画とは完全に一線を画すティストである。

しかも、本作には独特の冷めた視点がある。観客が素直に登場人物たちに感情移入させないようにしているのだ。更には、観客との間に薄いヴェールを一枚被せ、見る者の不安定さを喚起していく進行。やはり背徳の関係はタダでは済まぬという戒めか。それでも不倫に走るのなら、重くつらい責任を背負い込む覚悟が必要だと。

公開当時の日本人はこういった類のフランス映画に涙し、酔いしれたらしい。まったく違う文化や価値観を持つ人種への憧れ。その正反対な日本人たちが持つ間接的な感情表現が、同じ人間として心の琴線に触れたのだろうか。何でもポジティヴにというアメリカ映画とは違う描き方が、どこか自分たちと似ていると感じていたのかとも思っている。

当時は、海外へ行くことは夢のまた夢。パリなどは一生行けないと思っていた時代。しかし、その街にも日本人と同じように貧乏で慎ましい生活を送る人間がいる。仕事や家庭にくたびれ果て、ふと若い女性との恋に溺れる。そこに自身を重ねる男たちが数多くいたのだろうか。

割と簡単に海外旅行に行け、その土地の空気を直接肌で感じられ、またリアルタイムで世界の情報が得やすい現代の日本人の心には、この映画がどう響くか尋いてみたい作品。

余談雑談 2007年12月15日
師走に入って、二週間が過ぎた。もう幾つ寝るとお正月、というのも身近な感じだ。 ボーナスも少しは上昇した御仁もいたりして、少しは景気が上向いたとも聞くし、いやいや、値上げラッシュで青色吐息とも言われる。 そんな中、自分は一向に変わらない。ある