スタッフ
監督:スタンリー・クレイマー
製作:スタンリー・クレイマー
脚本:ウィリアム・ローズ、ベン・マドー
撮影:ジゼッペ・ロトゥンノ
音楽:アーネスト・ゴールド
キャスト
イタロ / アンソニー・クィン
ローザ / アンナ・マニャーニ
フォン・プルム大尉 / ハーディー・クリューガー
カテリーナ / ヴィルナ・リージ
トゥーファ / セルジオ・フランキ
バッバルーケ / レナート・ラシェル
ファビオ / ジャンカルロ・ジャンニーニ
アンジェラ / パトリツィア・ヴァルトゥーリ
日本公開: 1970年
製作国: アメリカ S・クレーマー・プロ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
『隠した大事なもの』の攻防戦。それにコメディ要素で考えた。前回、前々回は大きなダイヤを巡る話だった。今回はズバリ、質よりも量。
第二次大戦末期の北イタリア。山間部にある田舎町サンタ・ビットリアに大学生ファビオ(ジャンカルロ・ジャンニーニ)が、ムッソリーニが死んだという知らせを持ってきた。
すると町民の間で、ファシスト政権を打破しようという声が持ち上がる。大酒飲みで酒屋を営むイタロ(アンソニー・クィン)も賛同し、皆でムッソリーニ寄りだった町長を解任すると、何と彼が新町長に選任されてしまう。酒屋もちゃんと営めないダメ男に町長など勤まるはずもないと強烈に捲くし立てる妻ローザ(アンナ・マニャーニ)から逃れるため、ワインの酒瓶を抱え込み市役所に住むことにするイタロ。
しかし、平和を取り戻したかに見えた町に戦争の影が近づいて来る。ローマの病院に勤めていたカテリーナ(ヴィルナ・リージ)が
夫が死んだため帰郷し、二日後には脱走兵トゥーファがドイツ軍に襲われ、負傷して逃げ帰ってきた。
イタロはカテリーナにトゥーファの看病を依頼し、早く戦争が終わること祈った。
数日後、学生のファビオが新しい情報を持って飛んできた。ドイツ軍がこの町の唯一の財産であるワインを没収しに来るというのだ。慌てるイタロ。
何せ、この町には131万本ものワインがあったのだ・・・
同盟国であった相手に命懸けで町の財産を守ろうとする人間たちを描くコメディ。
母国のファシスト政権が倒れ狂喜する国民。先ず、この国民性を理解しないと以後の展開に乗れないかもしれない。当時、 『一億総玉砕』と吹き込まれていた日本とは違い、例え、負けても平和が良いと心底喜ぶイタリア人。
そんな彼らに同盟国だったドイツがどういう態度を取ったか。一気に『昨日の友は今日の敵』となり、町民は一丸となって、ワインを守ることを決めるのだ。
では、そのワインをどこに隠すのか。住民しか知らない町を見下ろす山の中腹にある古代ローマ時代の洞窟が最適だろうと。当然トラックもなく、手押し車などでは時間的に問題がある。何せ、131万本もあるのだ。そこで町民総出で町や畑を縦断し、そのまま洞窟まで手渡しで運ぶしかないと相成る。
このシーンは千人以上の老若男女のエキストラを使い、圧倒的な迫力で見せていく。更に雨が降ろうと一切構わず、人海戦術でワイン・リレーしていく。随所にイタリア人らしい振る舞いを見せ、思わず微笑んでしまうシーンだ。
何とか隠し終わった後、ドイツ軍が到着。多くのイタリアを舞台にした戦争コメディと同じく、町を挙げての歓待で、ワインなどないと誤魔化そうとする。
実際、戦争が終わり、開放に来たアメリカ軍が歓待されたからなのか、実にハリウッドが描くイタリア人像だとも思った。また、以前にも書いたが、アメリカから見るドイツとイタリアに対する扱いの違いが挙げられよう。今回もそうだ。ファシスト政権に対抗する町民は善人で、ドイツは侵入者という描き方。しかも、命令遂行のためには、かつての同胞をも殺すぞと脅すドイツ軍に対し、それでもめげないイタリア人たち。
ここに社会派スタンリー・クレイマー監督の面目躍如たる視点があると感じた。強いもの、または権力に刃向かう弱者たち。それが小さな輪から、やがては広がり、世界をも動かすだろうという希望。
ただ、60年代以降のクレイマー作品は、どれも大作指向で長尺な作品が多く、もう少し削ぎ落としてリズム感をだしてもよいのではと感じる作品も多い。
役者たちは実に面白いキャスティングだ。アメリカ映画ゆえに全員が英語で話すのはしょうがないとして、ドイツ軍のクールな将校といえば、真っ先に浮かぶハーディ・クリューガーから、町民たちは皆、イタリア人が演じている。
特にいかにも『イタリアのマンマ』として、豪快で周りの全員が恐れおののくほどの迫力を体全体で演じるアンナ・マニャーニ。イタリア映画で肝っ玉母さんといえば、真っ先に浮かぶ女優だ。また、当時セクシー女優として売れていたヴィルナ・リージや、いまだに「007カジノ・ロワイヤル」(2006)などでも活躍しているジャンカルロ・ジャンニーニなどがイタリア語訛りの英語で頑張る。
ただ、唯一、違うのが主役のアンソニー・クィン。彼はメキシコ出身だ。だが、「その男ゾルバ」(1964)同様、異邦人でありながら、ふてぶてしく劇場型の万事大袈裟なイタリア人を熱演している。
2時間20分という上映時間ゆえ、冗漫さを感じるが、面白い視点の作品。