スタッフ
監督:ジョン・フランケンハイマー
製作:ハロルド・ヘクト
脚本:エドワード・アンホルト、J・P・ミラー
撮影:ライオネル・リンドン
音楽:デヴィッド・アンラム
キャスト
ヒル / バート・ランカスター
サリー / シェリー・ウィンタース
カレン / ディナ・メリル
警部 / テリー・サヴァラス
コール / エドワード・アンドリュース
エスカランデ夫人 / ヴィヴィアン・レイザン
ダニー / スタンリー・グリッシェン
アーサー / ジョン・D・チャンドラー
ゾロ / ルイ・アロヨ
日本公開: 1961年
製作国: アメリカ H・ヘクト・プロ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
引き続きバート・ランカスター主演作。そんな彼と名コンビだったジョン・フランケンハイマー。彼らが組んだ第一作で、移民国アメリカの病巣をえぐった社会派サスペンス。
アメリカ、NY。とある昼下がり、スラム街の一角でプエルトリコ系の少年が街角で三人のイタリア系少年に刺殺される事件が起きる。三人はナイフを近くのゴミ箱に捨て、逃亡を図るが駆けつけた警察に身柄を確保された。
すぐに彼らから事情聴取するべくニューヨーク地検のベル判事補(バート・ランカスター)が警察署にやって来る。ベルは彼らがイタリア系不良集団サンダーバード団の一味と知るが、その中の最年少の15歳の少年の名前を聞いて愕然とする。彼の母親(シェリー・ウィンタース) は、かつての恋人だったからだ。そのことを上司に報告するが、上司は被害者が盲目の少年であったことから、自身の知事選への立候補のための絶好の宣伝になるから、とベルに第一級殺人で起訴せよと厳命。
早速調査を開始するが、母親から自分の息子は殺人を犯すような性格ではなく、巻き込まれたと主張し、自分の出世のためには見殺しにするのかと言い寄った。自らもスラム出身のベルは真実を追求するだけだ、と返答する。
そんなベルが更に調査を進めると、被害者もプエルトリコ系不良集団ホースメン団に関係があることが浮かび上がってきて・・・
当時のスラム街で起きていた様々な日常をショッキングに描く作品。
原作はエヴァン・ハンター。この名前ではピンと来ないかもしれない。だが、彼はもうひとつのペンネームを持っていた。エド・マクベインである。黒沢明の「天国と地獄」(1963)の題材となった『82分署』シリーズの原作者だ。社会の底辺にはびこる犯罪者や弱く脆い人間たちの葛藤を赤裸々に表現していくのを得意とした作家である。
移民国家であるアメリカで純然たる差別を受け、その中で犯罪に走る少年たち。仲間内で集団を作り、自分たちの縄張りを確保し、敵対する民族とは傷害や殺人をも持さない生き方。
往年の映画ファンならこの設定にあれ、と思う御仁もいるかもしれない。「ウエストサイド物語」(1961)と同じ設定である。つまり、こういった集団は当時、社会問題化していた。
スラムとは犯罪の温床であり、不法入国や不法滞在者を含め、一般社会のつまはじき者たちが蠢く街として認知されていた。事実、こういった不良集団に感化され、日本などでも同じような青少年たちが誕生した。
そんな彼らはやがて検事の家族にまで脅迫を行う。上司も完全に事件を政治利用しようとする。自身もイタリア系でスラム出身ゆえ、彼らの心情も理解できる。そういった環境で孤立していく主人公。
不良集団も革ジャンにジーンズという出たちで、今見るとある意味微笑ましいし、ストーリィもいささか定石的ではあるが、製作された時代を考えれば致し方ないだろう。
フランケンハイマー監督は当時30歳。以前に一作手掛けているが日本未公開なので、本作が日本デビュー作である。若さゆえに気負っていて、多少混乱しているとも感じるが、実際にスラムでのロケを多用し、ガラス越しやサングラスに写る情景など、凝ったシーンも散りばめ才能の一端を覗かせている。
ランカスターも前作の「エルマー・ガントリー」(1960)でアカデミー主演男優賞を獲った直後で気合が入った演技を披露している。
いささか体制的な匂いもするが、面白いと感じてしまうのはやはり、贔屓目ということだろうか。