スタッフ
監督:ジョン・フランケンハイマー
製作:エドワード・ルイス
脚本:ロバート・アラン・アーサー
撮影:ライオネル・リンドン
音楽:モーリス・ジャール
キャスト
アーロン / ジェームス・ガーナー
サルティ / イヴ・モンタン
ヤムラ / 三船敏郎
ルイーズ / エヴァ・マリー・セイント
ストダード / ブライアン・ベッドフォード
バルリーニ / アントニオ・サーバト
ジョーダン / ジャック・ワトソン
ターナー / グラハム・ヒル
レース・ドライバー / ブルース・マクラーレン
日本公開: 1967年
製作国: アメリカ MGM作品
配給: MGM
あらすじとコメント
前回の「明日なき十代」が日本デビューだったご贔屓のひとりフランケンハイマー監督。そんな彼の脂が乗り切っていた時期の作品で、死に直面する職業の男たちの孤独を際立たせるスケール感溢れる骨太作。
ヨーロッパ、モナコ。今、まさにモナコ・グランプリが始まろうとしていた。イギリス・ロータス社のレースカーのハンドルを握るのはアメリカ人アーロン(ジェームス・ガーナー)とイギリス人ストダード(ブライアン・ベッドフォード)。
宿敵フェラーリ社のサルティ(イヴ・モンタン)も参加していた。
レースが始まるが、途中、アーロンの乗ったレースカーがトラブルを起こしてしまう。結局、対処できずリタイアしようとしたが、すぐ後にいたストダードの車と接触事故を起こし、2台とも大破してしまう。アーロンは軽症で済んだが、ストダードは意識不明の重体。すぐさま病院へ搬送された。その報を聞いた映画女優でもあるストダードの妻は、死と隣り合わせの亭主に愛想を尽かし、離婚を決意。一方、アーロンも故障時には相手に道を譲る行為をしなかったと社のオーナーから激怒され、解雇されてしまう。
結果、レースはサルティが優勝した。彼はフェラーリ創立者の娘と結婚していたが、私生活は破綻をきたしていた。そんなサルティは雑誌記者のルイーズ(エヴァ・マリー・セイント)と知り合い、惹かれていく。方や、どのレーシング・チームからも参加を断られ続けるアーロン。
そんな彼に日本チームのヤムラ(三船敏郎)が声を掛けてきた・・・
車好きには堪らないレース映画の大作。
モナコに始まり、ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、イタリアといったヨーロッパ・グランプリを転戦してくドライバーたちと周囲の人間ドラマが繰り広げられていく。
各グランプリで優勝者は入れ替わり、それぞれの私生活にスポットが当てられていくというスタイル。アメリカ、フランス、イギリスという国柄を反映させた人間性を演じる役者は皆、上手い。
本作は、日本ではシネラマで公開された。この「シネラマ」という上映方式は、初期は三台のカメラで撮影し、それを三台の映写機で上映するというスタイルだった。ディズニー・ランドで360度の風景を映しだすアトラクションがあったが、それを半分にして、とはいっても180度の視界はないが、上映する。もしくは普通の写真とパノラマ写真の違いというべきか。だが、どうしても3台のカメラで映しだす繋ぎ目のピントがボケるのが難点だった。
しかも劇場のスクリーン自体が湾曲していたので、そうは目立たなかったが、DVDが発売されている「西部開拓史」(1962)などをTV画面で見ると、屈折率が扁平になるので落ち着きが悪くなる。
また、当時、劇場でも湾曲スクリーンゆえ、最前列の席に座ると両サイドが完全に視界から外れるという難点があった。
本作はそのシネラマ方式を非常に意識した作りで、画面が3分割から細かい48分割と自在に変化し、レースの臨場感を盛り立てる。実際、定点カメラや、車載カメラ、ヘリコプター撮影など24台ものカメラを使用した。
また、CGなどを嫌うフランケンハイマー監督は、すべてホンモノにこだわり、圧倒的な迫力でクラシュ・シーンなどを撮り上げた。まさに「大列車作戦」(1963)の再現である。しかも、監督は全レースを違うスタイルで撮り、編集するというこだわりもみせた。だから、長尺であるにもかかわらず飽きない。
それに、「大列車作戦」同様、モーリス・ジャールのスケール感溢れる音楽もしばらくは耳から離れないし、レース前後の人間ドラマの部分でレーサーたちの精神的不安定さを描いていくので、トーンの変わるレース毎のドライバーの生死を賭けた極限状態が見事に伝わってくる。
耳を塞ぎたくなるほどの轟音と時速250キロで視界から流れ去る風景。完全に車酔いし、体が強張る。
数多くレース・シーンがでて来るが、個人的には冒頭のモンテカルロのレースが一番好きだ。それはレース場でなく、建物が立ち並び、急カーブが連続する一般公道を走る恐怖感を見事に体験できるから。
また、フェラーリやロータス、BRMといった実在の車が登場する中、日本のホンダが活躍するので、見ていて興奮もひとしおだった。世界的スターに混じって、一歩も引けをとらない『世界のミフネ』に自分をダブらせた。
日本ではDVD発売はされていないが、是非、大きなスクリーンの劇場でリバイバル上映してもらいたいと心底願っている作品。