スタッフ
監督:ジョン・ヒューストン
製作:アーサー・ホーンブロウ Jr
脚本:ベン・マドウ、ジョン・ヒューストン
撮影:ハロルド・ロッセン
音楽:ミクロス・ローザ
キャスト
ハンドレー / スターリング・ヘイドン
エメリッヒ / ルイス・カルホーン
ドール / ジーン・ヘイゲン
ドク / サム・ジャフェ
ミニッシ / ジェームス・ホイットモア
シャヴェッリ / アンソニー・カルーソ
ブラノン / ブラッド・デクスター
総監 / ジョン・マッキンタイア
アンジェラ / マリリン・モンロー
日本公開: 1954年
製作国: アメリカ J・ヒューストン・プロ作品
配給: MGM
あらすじとコメント
引き続きスターリング・ヘイドン主演の犯罪ドラマ。今回奪うのは競馬場の売上金でなく宝石。これも渋い作品。
アメリカ、シカゴ。刑務所を出所したばかりの老知能犯ドク(サム・ジャフェ)は、ノミ屋のコディを訪ねた。服役前に暖めていた宝石強盗計画を実行に移すためだった。それには軍資金が必要だったのだ。だが、要求が高額過ぎたのでコディは悪徳弁護士エメリッヒ(ルイス・カルホーン)を紹介した。快諾するエメリッヒ。
すぐさま実行に移すべく、ドクとコディは人選に取り掛かった。金庫破りの名人とプロのドライバーは見つかったが、腕っ節の強い男がいなかった。そんな中、ドクはコディの事務所で借金を支払いに来た巨漢の青年を思い出した。彼は強盗を繰り返しては競馬に入れ込んでいるハンドレー(スターリング・ヘイドン)というプライドが高い男だった。しかも彼はドライバーの友人だったので信用が置けると判断したドクたちは仲間に引き入れた。これでメンツが揃い計画を実 行に移すことになる。
しかし、スポンサーであるエメリッヒは、実は破産しており、彼らが奪ってきた宝石を独り占めしようとしていた・・・
欲深き人間たちが破滅へと陥っていく姿を描いた犯罪映画の秀作。
登場人物のほとんどが心に闇を持っている。犯罪映画としては当然だろう。
実際に犯行に及ぶのは四人。主人公のヘイドンはキレやすく、ぶっきらぼうだが、馬好きで父が手放した故郷ケンタッキーの牧場を買い戻したいと願っている。一歳にも満たない赤ん坊の父親で、亭主の素性を知らない妻を持つ金庫破り。車のプロは、表向きカフェを経営する背の小さな障害者。
そんな実行犯の中で、一番興味深い設定だと感じたのは計画立案者の老ドイツ人。どこか飄々としてマイペース。何を考えているのかまったく解らず、言動も奇抜。いわゆるコメディ・リリーフ的役回りだ。確かにそのキャラが映画の緩和剤になっている。
実行グループの他もクセのある人物が多く登場する。緊張すると汗をかき、嘘がつけない気弱なノミ屋。そんな彼にたかる悪徳刑事。豪邸に住み金遣いが荒く破産した弁護士。彼の妻は精神を病みベッドからでない。ゆえに弁護士は少々頭が弱いが抜群にセックス・アピールがある孫ほど歳の違う女を囲っている。また、彼に雇われて債権回収を行っている腹黒い探偵。
皆、金や名誉に眼が眩んだいびつな人間たち。唯一、普通に見えるのは粗野な主人公に尽くす元酒場女。だが、彼女も前科者に惹かれ、棄てられないウィーク・ポイントを持つ。
何だありがちだな、と感じる御仁も多いだろう。だが、本作が以後のこういった設定を決定付けた作品なのだ。それまでの犯罪モノは一匹狼的犯罪者やギャング団対警察の派手な銃撃戦といった類が主流だった。しかも、どちらかというと登場人物たちの性格設定など端折っていたのが主流。
そこに表向きは善良なる市民を装っているが問題を抱える人物たちにも含みを持たせ、セミ・ドキュメンタリー・タッチの正統派作劇で見せていく。
ここに『失われた世代』のひとりであるジョン・ヒューストン監督の真骨頂が見える。
この『失われた世代』というのは、多くの人間が死に、疲弊した社会から経済復興を遂げつつあった第一次大戦後の192~30年代にパリに移り住んだ若きアメリカ人たちを指す。作家ではヘミングウェイやフィッツジェラルド、軍人ではパットンやアイゼンハワー、画家のノーマン・ロックウェル、他には大リーガーのベーブ・ルースや俳優のハンフリー・ボガードなど、以後のアメリカで様々な影響を与えた人物たちである。皆、独特なプライドと気骨を持った人間たちだ。
日本で公開されたのは製作されてから四年後で、若き愛人役で出演しているマリリン・モンローの人気がでてきたお陰で、やっと公開されたと伝え聞いている。
目まぐるしく流行が入れ替わり、アメリカ以上に便利で簡単なのが当り前の時代に生きる若き日本人にはテンポが合わない古臭い映画かもしれない。
だが、 当時の日本人が憧れた自家用車から大型冷蔵庫、幸せな中産階級のホーム・ドラマや美男美女のラブ・ロマンスといった豊かなアメリカとは違う一面を見せ付けてくれた骨太作である。