今回の都々逸は、上で扱った作品から連想したものしてみた。
「むかし馴染みとつまずく石は 憎いながらもあとを見る」
「むかし馴染み」とは、花柳界では鞍替えした客という意味だろうか。つまり、今は自分でなく別な芸妓を指名している客。一般人としては、昔、『関係』があった相手であろう。そこには『未練』と『嫉妬』が入り混じる。
一方、「つまずく石」は不意に訪れる出来事だ。そして、ふとした拍子に昔を思い出す。だが、あくまで「あとを見る」であって、行動には移さない。
そこに日本人としての美学があったのだろう。ただし、亜熱帯性のスコールとは違うしとしととした微妙な『湿気』がある。言い換えれば『陰湿』性とも取れよう。
しかし、それこそが、多くの文学、映画作品を産みだして来た『湿り気』だろう。