スタッフ
監督: ピーター・イエーツ
製作: ミカエル・ディーリー
脚本: スターリング・シリファント
撮影: ダグラス・スローカム
音楽: ジョン・バリー
キャスト
マーフィ / ピーター・オトゥール
ヘイデン / シアン・フィリップス
ブレザン / フィリップ・ノワレ
ラウシュ艦長 / ホルスト・ヤンセン
エリス中尉 / ジョン・ハーラン
ヴォート中尉 / インゴ・モーゲンドルフ
乗組員 / ジョージ・ルービセック
日本公開: 1972年
製作国: イギリス ディーリー&イエーツ・プロ作品
配給: 東京第一フィルム
あらすじとコメント
孤独な異邦人が、たった一人で大きな敵に立向かう。舞台も中南米と同じ。違うのは『殺し屋』でもなく、『プロ』でもないということ。
第二次大戦末期の南米ベネズエラ沖。イギリスの商船がドイツのUボートに襲撃され、沈没させられた。搭載されていた水上偵察機の整備士マーフィ(ピーター・オトゥール)は、仲間たちを執拗に殺していく潜水艦を睨みながら、意識を失った。
翌日、彼は近くの島にある石油会社の管理人であるフランス人ブレザン(フィリップ・ノワレ)に助けられ、伝道療養所の女医ヘイデン(シアン・フィリップス)の治療を受け、回復していく。そんなマーフィは近くを流れる川を上ってUボートが襲撃したと告げるが、彼女は、そんなことは有り得ないと笑った。近辺の戦況を報告する役目も負っているヘイデンは無線で、商船撃沈と生存者一名という内容をトリニダードの英軍へ送った。その直後、マーフィの上官である将校が流れ着き、何とか隠した偵察機を修理しろと命じる。
渋々、マーフィとブレザンが機を探しに行っている間に、無線を傍受した潜水艦の乗組員たちがやって来る。潜水艦の艦長は遮るヘイデンを押し退けると、ここにUボートがいると知られてはマズイのだと笑い、将校に銃口を向けた・・・
異様なまでの復讐心に燃えた男の壮絶な戦いを描く作品。
冒頭、いきなり襲撃された貨物船の沈没から始まる。仲間が次々と殺され、その光景を眼に焼き付けていく主人公。
そんな彼が、戦争とは程遠い小島で働くクェーカー教徒の女医に助けられる。そしてもうひとり、七ヶ国語を話し、五つの方言を操るが、四年も給料が遅配となっていると笑う、どこか仙人のような世捨て人のフランス人がいる。後は原住民だけ。
二人の文明人である女医と管理人は、世界中が戦争しているが、自分たちには対岸の火事程度にしか感じていない。諦念と孤立感の世界である。
そこに、始めこそ自分も文明人として接しようとする主人公が、直属の上官を殺されてから、偏執的な戦争マニアに変貌していく姿を追っていく。
そのストイックとはまた違う、異様な雰囲気を醸しだす主人公を演じるピーター・オトゥールが上手い。ただ、上手すぎて気色悪いという印象を与えるのだが。
ストーリィとしては、映画はやがてドイツが降伏するという展開を見せる。これで無事に帰れると喜ぶ乗組員たちと苦虫を噛み潰した表情を浮かべる主人公。それすら、流れてくるラジオでしか情報を知り得ない。
全員がどこか取り残されているのだ。暑いが、のどかで熱帯雨林が拡がる場所。およそ戦場には似つかわしくない場所。孤独が際立ち、やがてすべての感情が自己帰結して行くしかない場所でもある。
先人のフランス人は諦念している。それを見て主人公は何を感じるのか。寒い故郷を離れ、乗員の仲間たちしかいないドイツ人は南の果てで何を感じるのか。しかし、敵がいる以上、そこは戦場なのだ。
少ない登場人物だが、それぞれが当時の人類を集約していると感じさせる。
一体、誰に感情移入するのか。それとも、誰とも違う価値観を持つ自分を見いだすのだろうか。
通常の戦争映画とは一線画する内容に好き嫌いは分かれよう。