スタッフ
監督:内田けんじ
製作:矢内廣、中村雅哉、児玉守弘 他
脚本:内田けんじ
撮影:井上恵一郎
音楽:石橋光晴
キャスト
宮田武 / 中村靖日
桑田真紀 / 霧島れいか
神田勇介 / 山中聡
浅井志信 / 山下規介
倉田あゆみ / 板谷由夏
梶哲也 / 眞島秀和
丸尾誠二 / 近松仁
山内茂 / 北野恒安
タクシー運転手 / 李鐘浩
レストランの店員 / 松澤仁晶
製作国: 日本 PFF作品
配給: クロックワークス
あらすじとコメント
先月、この<番外編>で、昨年の邦画ベストワンとして「アフタースクール」を紹介した。そこで少し触れたが、どうしても、その内田監督のデビュー作もちゃんと扱いたくなった。紹介する前後は 逆かもしれないが、ご容赦いただきたい。
東京。会社員の宮田(中村靖日)は、上司から、明朝、女性とのデートに使いたいから、お前の部屋を貸せと言われる。何故なら、宮田は元カノのあゆみ(板谷由夏)との結婚を夢見て豪華なマンションを購入したが、彼女にフラれて以降、たったひとりで住んでいたからだ。気の弱い彼は、困惑しながらも断れなかった。
その日の夜、宮田が仕事から帰宅すると、突然、彼の携帯が鳴る。相手は友人の神田(山中聡)で、元カノの情報があるから、すぐに近くのレストランにでて来いとのことだった。慌ててレストランへ向う宮田。そんな彼を見て、半年も前に棄てられたくせに未練タラタラだなと諭す神田。新しい恋でもした方が良いと、突然、近くの席に独りでいた真紀(霧島れいか)をナンパした。しかし、神田は二人を残して、突然、姿を消す。
そこで真紀は、昨日婚約破棄したばかりで、今日から行くあてがないの、と呟いて・・・
5人の男女が繰り広げる、脚本勝利のコメディ作。
面白いのはその作りとリズム感。流れとしては、上記したストーリィの次に、神田のシークエンスが登場。
そこから、突然物語が変調する。とはいっても、今度は、彼が宮田と会う前後の時間帯に、何をやっていたかが描かれる。
そこで思わずニヤリとした。実に上手い設定にして展開なのだ。それ以後、主人公の元カノと、ヤクザの親分が登場し、メインの五人の人生が複雑に絡みだす。
気が弱く、でも、完全にイイ人の主人公。どこかビリー・ワイルダーの傑作「アパートの鍵貸します」(1960)の主人公に似た設定だ。その上、ニヤリとするコメディ展開。
完全にワイルダーの影響を見た。そのまま素直にハート・ウォーミングな進行なら、単なるパクリだ。しかし、内田監督は、観客にそういう匂いを感じさせつつ、全く違う作品に仕上げた。
練りに練られた脚本。気の効いた台詞。そして眼を見張る展開。かつて日本映画にはなかった作劇。完全なるアイディア勝利の作品に唸った。
ただ、惜しむらくは俳優たちに華がない。それに予算の関係だろうが、セットや照明などに金を掛けられず、どこか自主映画の世界観が拡がるのが難点。
だが、舞台系など、売れなくて苦労している俳優たちゆえのヘンに力んだリアリティは、モデルとか、アイドル系出身の単なる上っ面だけのスケスケの演技とも違い、好感が持てないわけではない。もし、大手資本によって、それなりの人気者や有名俳優を配したら、きっと違う作品になっただろうし、作品の認知度も桁外れに上がったことだろう。
だが、それでは本作の持つ心憎いインパクトが緩和されるかもしれないとも感じるのが痛し痒しなのだが。
思いも付かぬ展開と関連性。そのくせ、登場人物の5人中4人に内田監督同様、『田』が付く苗字が登場するなど、手抜きかとも感じる部分もある。しかし、見ていくと、それも内田手法のひとつかと笑ってしまった。
不思議なスパイラルに心地良く酔えるし、コメディを強く意識した脚本もトーン・ダウンしない。ニヤリとするエンディングまで目が離せないし、見終わった後、面白く混乱した自分が、どこでどうなっていたかを再確認するために、すぐに見直したくなる。これは監督の「アフタースクール」でも感じたことだ。それほど面白いと感じた。
認知度はまだまだ低い監督であるが、どのような作家に変貌していくか楽しみ。余談だが、友人の某有名映画監督と話したとき、この作品が話題が上り、「やられた」と言っていたのが印象的。
未見の方には、これ以上、情報を得ずに鑑賞することをおススメする。きっと、見終わった後、誰かに話したくなる作品だから。