入院生活の日々。
どうしても、大部屋では熟睡できない。なので深夜に起き、以前の生活同様、コーヒーを飲むために、夜な夜な一階の自販機へと降りていった。
そこは『緊急救命センタ-』でもある。静かな夜もあるが、救急車が数台も横付けになり、更に入れなくて敷地外で待機するときもある。まさに映画かドラマのような世界。しかし、全てが真実である。
酔っ払って担ぎ込まれる者。同乗してきたのはスーツ姿の赤ら顔でありながら、真っ青な顔で搬送者の革靴を持ったまま呆然としてウロウロする同僚。
蒼白な表情で『オペ室』を見つめる者、中から時折聞こえる悲鳴とも絶叫とも付かない声、青い手術服を着たドクターが、イスに座り込む関係者に当時の状況を尋いている。泣き崩れる女性をなだめる家族たち。
傷害絡みなのか、警察官が若い二人連れに事情聴取をしながら、都度、無線連絡を入れる。そのひとりは、やがて手錠をかけられ、パトカーに乗せられた。異様な緊迫感と絶望感が入り混じる空間。
そんなことが起きるのは、何も深夜だけではない。とある陽射しがやわらかい午後。突如、看護師たちが中から出て来て、院外の車寄せに移動カーテンが張り巡らされた。同時に、日光浴を楽しむ患者たちに退去命令が出た。
救急車がやってくると降りてきたのは頭から足元まで完全防護服姿の隊員。ストレッチャーで降ろされたのは、パンツ一丁で、全身が紫に変色した中年男性。意識はない。
薬品か有毒ガスの嘔吐の危険性があるのか。室内では二次感染するからか。すぐに医師たちが、防護服を着て心臓マッサージに入った。一緒に外にいた入院仲間が、病室から見えると囁いた。趣味が悪いのは百も承知だが、上から覗くことにした。部屋の窓から数人が見ていたら、看護師が飛んできて、ブラインドを降ろされた。
数十分後、ブラインドの隙間からそっと覗いた。延々と施していた心臓マッサージの甲斐なく、白い布が顔に被せられていた。
それを見て、骨折など蚊に刺されたようなものだと感じた。