スタッフ
監督: キャロル・リード
製作: キャロル・リード
脚本: グレアム・グリーン
撮影: オズワルド・モリス
音楽: ハーマノス・デニス・キューバン・リズム・バンド
キャスト
ワーモルド / アレック・ギネス
八ッセルバーガー博士 / パール・アイヴス
ベアトリス / モーリン・オハラ
セーグラ署長 / アーニー・コヴァックス
“C” / ラルフ・リチャードソン
ミリー / ジョー・モロー
ホーソン / ノエル・カワード
カーター / ポール・ロジャース
将軍 / レイモンド・ハントレー
日本公開: 1960年
製作国: イギリス キングスメッド・プロ作品
配給: コロンビア
あらすじとコメント
引き続きキャロル・リード監督作品。当時としては、かなり風刺の効いたスパイ・コメディ。
キューバ、ハバナ。時はカストロによる革命前夜。米英合弁会社ファースト・クリーナーズの現地代理店を営むイギリス人ワーモルド(アレック・ギネス)は、面白味のない謹厳実直な中年男だ。12年前に妻に逃げられ、17歳になるひとり娘が何かと彼の面倒を見ていた。
ある晩、バーで飲んでいると同郷のホーソン(ノエル・カワード)が近付いてきて、彼の耳元で囁いた。「英国諜報機関に協力しないか」耳を疑うワーモルド。しかし、娘の学校で金が必要だった彼は、報酬金額を聞いて思わず同意してしまう。カリブ地区諜報部長の肩書きを持つホーソンは、彼に「59200-6号」というコード・ネームを与えた。
すぐにイギリスから諜報活動の報告をせよ、という命令が矢のように来はじめ、困惑したワーモルドは「活動協力者リスト」と称して、自分の友人たちの名前を書いて送った。その後もデッチ上げの情報を流す彼を、中々、見込みのある男だと見込んだ本国の機関が考えたのは、優秀な助手を送り込むことだった。
そして、秘書としてやってきたのが美人のベアトリス(モーリン・オハラ)だったことから・・・
メンツを重んじるイギリス人を、政治色を加味して風刺したコメディ。
米ソ冷戦が始まり、カストロが革命を起こし、社会主義となった国キューバ。その前夜、各国が諜報活動を活発化させていた時期を舞台に、単なる一市民を俄かスパイに仕立て上げ、逆に翻弄されていくイギリス諜報機関MI-6を描いた。
原作はイギリスの作家グレアム・グリーン。そこに名匠キャロル・リードが組む。往年の映画ファンならピンと来るだろう。秀作の「落ちた偶像」(1948)、映画史上に燦然と輝く傑作「第三の男」(1949)を手掛けた名コンビの三度目の作品である。
今回もシニカルなイギリス人らしい視点の原作をサスペンスが得意の監督が映像化した。内容はかなり辛辣で風刺が効いているが、当時の背景を知らないと興味が半減してしまうのも事実。
ただ、面白いのは本作がカストロ率いる革命政府が樹立された後に、現地でロケが許可された数少ない作品であるという点。だから、当時の現地の雰囲気が抜群なる臨場感で描かれる。
ノリの良いラテン音楽。暑苦しさと息苦しさを伴った街並みと人々の熱気や吐息。その中で、地味ながらも見事なる実力派俳優たちによる演技合戦が繰り広げられる。
劇作家としても超有名だったノエル・カワードやウィリアム・ワイラー監督の「大いなる西部」(1958)でアカデミー助演男優賞を獲得したパール・アイヴス、ジョン・フォード監督作品の常連モーリン・オハラなど、実に皆、上手い。主役は「戦場にかける橋」(1957)でアカデミー主演男優賞を受賞した、クセ者俳優アレック・ギネス。
当時としては、何とも豪華なスタッフ、キャストが揃っている。
余談だが、かつて『007』シリーズでジェームス・ボンドを演じたピアース・ブロスナンが、そのままのイメージで出演した「テイラー・オブ・パナマ」(2001)は、本作のある種のリメイクだと思っている。ただ、設定をキューバに出来ず、パナマにしたのかなと、うがった見方をした記憶がある。
本作で描かれるのは、007が産まれる前の地味な存在だった英国のスパイ。当然、派手なアクション・シーンはないが、スリルとサスペンスに満ち溢れる展開は、流石のキャロル・リードだと感じた。
ただ、コメディとしての部分は時代性や国民性によって異なる印象を受けるとも感じる。まして、リード、グリーンのコンビ作として以前の二作と見比べると、かなり格落ち感がするのは否めない。
派手さはないが、いかにもイギリスらしいシニカルな視点のブラック・ユーモアに溢れた作品。