の・ようなもの            昭和56年(1981年)

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スタッフ

監督:森田芳光
製作:鈴木光
脚本:森田芳光
撮影:渡部眞
音楽:塩村宰

キャスト

エリザベス / 秋吉久美子
外船亭志ん魚 / 伊藤克信
外船亭志ん水 / 尾藤イサオ
外船亭志ん肉 / 小林まさひろ
外船亭志ん水 / でんでん
外船亭志ん菜 / 大野貴保
由美 / 麻生えりか
外船亭扇橋 / 入船亭扇橋
由美の父 / 芹沢博文
由美の母 / 加東治子

製作国: 日本 N・E・W・Sコーポ作品
配給: 日本ヘラルド映画


あらすじとコメント

映画の一側面として、その時代性を強調させるものがある。本作はそんな一本。

東京、下町の下谷あたり。落語家の二つ目志ん魚(伊藤克信)は、23歳の誕生日に、兄弟子の志ん米(尾藤イサオ)たちからカンパを貰い、ソープへ筆下ろしに行く。

接客してくれたのはエリザベス嬢(秋吉久美子)。落語家のくせに栃木弁の訛りがあり、垢抜けない志ん魚に好意を抱くエリザベス。金は無いし、二度と来ることはないと力なく笑う志ん魚に自宅の電話番号を教えた。

それから、彼はプライベートで彼女と付き合うようになる。広く今風な部屋にひとりで住み、英語の本をいとも簡単に読み、レストランでは難しいメニューを泰然と注文する大人の女だった。そのことを知り、羨ましがる兄弟弟子たち。

そんなある日、とある女子高の落研のサークルの学生たちが訪ねて来る。真打とは言わないが、一応プロの咄家にお教え願いたいと。

喜び勇んで女子高に向かう志ん魚だったが・・・

落語家たちの日常をユーモアたっぷりに描く作品。

このところ、漫才に代表される「お笑いブーム」が続いている。その所為か、俄かに落語の人気が復活しているという。

名人と呼ばれた噺家の大名跡を継承する者が増え、映画でも津川雅彦が「寝ずの番」(2006)を作り、「しゃべれども しゃべれども」(2007)、「落語娘」(2008)など、どこか昭和回顧的なイメージで受け入れられているのだろうか。

本作は、当時、描かれることの少なかった落語家たちの日常を描いていく。

つまり、誰もが知っている職業ではあるが、その実、イメージがつかないし、大人気で憧れの職種ではないという類。

ベテランの真打でなく、若手。当然、噺にも、芸にも余裕はなく、常に何かしら面白いことをやって、それが芸の肥やしだ、とうそぶく。それがダメだったら、「洒落」で済まそうとする。いつも、頭には女のことばかりで、そこいらの青年と同じ人間として描いていく。

森田監督は、学生時代から8ミリ映画で活躍していた人間。そんな彼の長編デビュー作であるからして、まったくもって、学生映画の延長のような作り。

当時のファッションや、時代を反映し過ぎたギャグなど、今の人からすれば、疑問符が付き、笑えないシーンも数多い。また、役者たちも芸達者などは出演していないので、学芸会的演技に鼻白む御仁も多いかと思う。

DVDで見直して、やはり、時代性を感じたが、逆に、この映画の時代をリアルタイムで経験していた人間としては、非常にリアルな思い出が蘇った。

当時、自分にも少し名の売れた噺家の友人がいたが、本作の落語家たち同様、ファッションはトラッドか、アイビー・ルックだった。劇中でも『VAN』とか『Kent』といった当時、一世を風靡した人気ブランドがでてくる。それだけで懐かしい。

また、無名時代の室井滋や小堺一機、関根勉から、まだ若手だった三遊亭楽太郎や、大好きだった最後の江戸前の落語家、先代(五代目)春風亭柳朝が、でているのも感慨深い。

しかし、個人的に最大の衝撃は、終盤近く、主人公が女子高生の家を辞し、終電が終わってしまった深夜から夜明けにかけて徒歩で家まで帰るシーンである。

東京の葛飾区にある、木造だった京成線「堀切駅」を横目に見てから、独り言的ナレーションをバックに、ひたすら歩きだす。

続いて、アサヒビールの工場(今では「生ビールのジョッキ型」で金色に輝く本社ビルになっている)が、写しだされ、隅田川を渡り、「雷門」をくぐらずに、横目でチラリとだけ見て、そのまま、突き当りにあった「仁丹塔」方面へ。そして、現在はホテルになってしまった、『松竹歌劇団』常演の「国際劇場」がでてくる。

自分が幼少のころから、ほとんど毎日見ていた建物たちである。身震いし、胸が締め付けられた。四半世紀で、どれほど東京の街並が変わったかを痛感し、絶句した。予算がなく、ほとんどすべてをロケで撮った成果である。

旬の映画とは、ファッションやギャグといった風俗を閉じ込め、その『生』の時代を切取り、フィルムの中に封印するだけではない。

つまり、その時代に、実際にそこに生きていた観客である人間のリアルな思い出をも封じ込めるのだと感じ入った。

余談雑談 2009年9月23日
秋のシルバー・ウイークも終わりである。 家族一緒に出掛けるファミリーあれば、家でゴロゴロするご主人もいたかもしれぬ。 で、今回の都々逸。 「朝寝朝酒朝湯に入れて 後はタンスにある保険」 落語を扱ったからでもないが、洒落がキツくて、亭主族には