スタッフ
監督: ハル・アシュビー
製作: ジェラルド・エアーズ
脚本: ロバート・タウン
撮影: マイケル・チャップマン
音楽: ジョニー・マンデル
キャスト
バダスキー / ジャック・ニコルソン
マルホール / オーティス・ヤング
メドゥース / ランディ・クェイド
先任衛生軍曹 / クリフトン・ジェームス
売春婦 / キャロル・ケイン
ヘンリー / ジェリー・サルスバーグ
ドナ / ルアナ・アンダース
アネット / キャスリーン・ミラー
ナンシー / ナンシー・アレン
日本公開: 1976年
製作国: アメリカ アクロバット作品
配給: コロンビア
あらすじとコメント
引き続き、陸に上がった水兵の話。しかし、ミュージカルでもなく、恋愛ドラマでもない。今回はロード・ムーヴィーだ。
アメリカ、ヴァージニア州。ノーフォーク海軍基地で陸上勤務に就いているバダスキー軍曹(ジャック・ニコルソン)は上官から、急遽、呼びだしを受けた。部屋に行くと、マルホール軍曹(オーティス・ヤング)も呼ばれていた。
上官は、二人に新任務を与える。それは、ワシントン州にあるポーツマス刑務所まで、軍法会議で有罪判決を受けた若き水兵メドゥース(ランディ・クェイド)を護送せよとの命令だった。バスと列車を乗り継ぎ、一週間以内に帰営すればよいと。
バダスキーは、二日で護送し、残りの五日は休暇も同然と喜んだ。だが、メドゥースという男は朴訥そうで純情な、たった18歳の青年であった。
しかも、彼は「窃盗未遂」の段階で逮捕されたにも関わらず、懲役8年と懲戒除隊という厳しい判決が下っていたことを聞いたバダスキーは・・・
寂しい人間たちが織り成すアメリカン・ニュー・シネマの佳作。
どこか世間知らずで、子供っ気が抜けていない青年。かつて何度か万引きで補導された経験があるが、逮捕歴はない。そんな青年が、若い盛りの8年を棒に振る。しかも、『懲戒除隊』であれば退職金なども支給されない。
それほどまでの厳しい刑罰を言い渡したのは、司令官の偏った私怨であると感じる主人公。しかし、それが組織である。一方、相方の黒人軍曹は、どこか真面目さを感じさせる男だ。
そんな三人が冬の東海岸を北上していくという話。
長年、水兵として生きてきた護送役の男たち。決して教育レベルは高くはなさそうでもある。その上、自分たちも海上生活が長いので、世間知らずのくせに「頭でっかち」なのだ。
等身大の普通の人間たち。護送を命令された二人は、それぞれが自分の価値観を持つ。一方で、護送される青年は生真面目すぎて女性との経験もない。しかも、途中、母親の住む実家の近くを通過する。
そういった事実が、寒さを感じさせる場所で、次々と浮かび上がってくる展開。
物語は、見る側の想像通りに進行し始める。
そこにこそ、アメリカン・ニュー・シネマの真骨頂である『等身大の人間』の『自分探し』が幕を開ける。
劇的な盛り上がりはない。淡々と、常に寒さを感じさせながら進行していくのみである。しかし、青年だけは収監されるという片道切符である。
大した経験もないだろうに、年上の男として、心優しさを押し付ける主役を演じるジャック・ニコルソンが素晴しい。
更に、相方のオーティス・ヤングや、青年役のランディ・クェイドも実に自然体で見事な演技を見せる。
妙な仲間意識が芽生え、初めて他人に親切にされたであろう青年が、やがて、短期間の経験で成長していく。しかし、その成長こそが、逆に強烈なるジレンマを産みだしていく。
知らなかったことが幸せ。しかし、出所後では何も知らぬまま青春期を終えている。どちらが幸せなのか。
日本人としては『日蓮正宗』が重要な鍵を握る設定であるので、いささか複雑な心境になった。
宗教観や政治に対する不満といったニュー・シネマ特有の突き放すでもなく、寄り添うでもない微妙な距離感が寒さを感じさせる画面と妙にマッチする。
映画編集出身のハル・アシュビーの気負わないが、微妙なトーンに、こちらの心まで凍りそうな作品。