スタッフ
監督: アルフレッド・ヒッチコック
製作: アルフレッド・ヒッチコック
脚本: ジョン・マイケル・ヘイス
撮影: ロバート・パークス
音楽: バーナード・ハーマン
キャスト
ワイルス船長 / エドマンド・グェン
マーロー / ジョン・フォーサイス
ジェニファー / シャーリー・マクレーン
ミス・グレイヴリー / ミルドレッド・ナットウィック
ウィッグス夫人 / ミルドレッド・ダノッグ
ウィッグス / ロイヤル・ダーノ
グリーンボウ医師 / ドワイト・マーフィールド
アーニー / ジェリー・マシューズ
都会の富豪 / パーカー・フェネリー
日本公開: 1956年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
ウォーレン・ビーティ出演作は面白いものが多いのだが、少し目先を変える。で、彼の実姉であるシャーリー・マクレーンにシフトしてみた。大好きな女優のひとりだし、折角だから彼女のデビュー作。
アメリカ、ヴァーモント州。とある田舎の朝。4歳になる男子アーニーが遊んでいると、突然、銃声が3 発、森の中で響いた。驚いた彼が、何事かと走りだしたら、ひとりの男が頭から血を流して死んでいた。慌てて逃げだすアーニー。
すると近くの住人ワイルス船長(エドマンド・グェン)がライフルを持ってやって来た。船長は、死体を見つけるなり、ウサギを狙って撃った弾で、間違って彼を射殺してしまった、と思う。すると、そこにオールド・ミスのグレイヴリー(ミルドレッド・ナットウィック)が、通りかかってしまった。「これは、不幸な事故なのです」そう言う船長。一見、ツンケンした印象の女史は、何故か頷いて、船長を午後のお茶に誘うと去っていった。
すると、今度はアーニーが母親のジェニファー(シャーリー・マクレーン)を連れてきた。慌てて身を隠す船長。
彼女は、死体を見るなり呟いた「ハリー」・・・
えらくインモラルで、シュールなコメディの佳作。
ヒッチコックといえば、スリラー映画の巨匠である。しかし、本人は太っていて、どこか愛嬌のある感じがする。しかも真面目な顔をしてトボけたことを言う。
彼自身がホストを務めていたTVシリーズの「ヒッチコック劇場」などを見てもお解かりだろう。
そんな彼のイ メージに、ピタリとハマる作品。
晩秋深まる田舎町。周囲は紅葉が見事である。そんな森の中に、スーツ姿でダンディな男が死んでいる。しかも、服も髪も乱れていない。まったく、リアリティのない死体である。
この冒頭から、本作は非日常的なオハナシだと想像が付く。
ウサギを撃ちに来た船長。そもそも、のどかな田園が拡がる片田舎に『船長』が住んでいるというのがおかしい。彼は、自分が彼を射殺したと思い込む。そこに通りかかるオールド・ミス。彼女は死体を見ても動じず、靴のつま先でツンツンと死体を蹴ったりする。
それから、死体の知り合いらしい若い子持ちの女性。彼女も、どこかサバサバして死体を見つめるだけ。
その他にも、読書に耽ったまま死体にツマづいても、まったく気付かない医者。続いて通りかかった流れ者の浮浪者だけは、死体の履いていた高級な靴を奪うが、後は知らぬ振り。
大体、こんな片田舎の道もないような場所を通行人が大挙して通る。あり得ないことである。
つまり、これはリアリティのまったくない、しかも整合性を無視した作品だと印象付けるのである。流石、ヒッチ先生は違うと思わせるのだ。
続いて、田舎町に場所が移り、訳の解らない絵を描く絵描きの男や、雑貨屋の女主人、嫌な感じの保安官助手が登場。
さて、映画はどんな展開を見せるのかと思うと、船長が死体を埋めようと思い立つ。
確かに、自分が殺 したと思っているのだから、さもありなんである。ところが、その死体に対して、子持ちの女性や、オールド・ミスまでもが、何やら関わりがあることが判明。そこに持ってきて画家が子持ち女性に好意を寄せていたことから、死体に関してそれぞれの意見が、二転三転していくのだ。
埋めたものの、今度は掘り起こす。しかし、また問題が起き、再度埋め直すか、という展開。
つまり、本作は徹底的に死体を弄ぶ喜劇なのだ。それ故にリアリティをまったく感じさせないシュールな展開なのだ。
しかし、一寸したことからサスペンスが盛上るヒッチコック・タッチは素晴しいし、どこかホラーめいたカットや、醒めて突き放したようなユーモアが混在し、流石である。
当然、直接的ではないが、独特のエロティックさも垣間見られる。
特に本作がデビューであるシャーリー・マクレーンのダンサー上がりのふくよかだがセクシーという体型や、ショート・カットでボーイッシュでありながら、女盛りを感じさせる小悪魔的な印象は忘れ難い。
死体を扱うコメディの走りと呼べる作品であり、且つ、いけないと思いつつも、ニヤリとしてしまう映画である。