スタッフ
監督: ルネ・クレマン
原作: J・コンパニース、V・アレグザンドロフ
脚本: ルネ・クレマン、ジャック・レミー
撮影: アンリ・アルカン
音楽: イヴ・ボーディエ
キャスト
ラルガ / マルセル・ダリオ
ギベル医師 / アンリ・ヴィダル
ヒルデ / フロランス・マーリィ
フォルター / ジョー・デスト
ハウザー将軍 / クルト・クローネフェルド
クチュリエ記者 / ポール・ベルナール
イングリット / アンヌ・カンビョン
ウィリー / ミッシェル・オークレール
ランク艦長 / ジャン・ディディエ
日本公開: 1948年
製作国: フランス スペヴァ・フィルム作品
配給: SEF、東宝
あらすじとコメント
今回も、第二次大戦下での潜水艦を舞台にした映画。ドイツ軍の潜水艦が舞台だが、フランス製であるのがミソ。
ノルウェー、オスロ。1945年5月、ドイツの敗北が寸前の時期に、一艘の潜水艦が密かに出航した。
だが、今回は今までの雷撃出動とは状況が違っていた。ドイツ国防軍のハウゼン将軍、秘密警察の大物フォスター(ジョー・デスト)と部下、イタリア人で産業界の大立役者ガロージと、妻ヒルデ(フロランス・マーリィ)、他にノルウェー人学者の父娘、フランス人ながらドイツに加担していた新聞記者らが乗艦していたのだ。ハウゼン将軍は密名を帯びていると皆に話し、目的地は南米某所であると告げるが、態の良い逃げ口上であった。しかも、ヒルデは将軍の愛人でもある。
そんな艦が英仏海峡上で敵艦の襲撃を受け、ヒルデが頭を打って怪我を負ってしまう。しかし船医は乗船していない。焦ったハウゼンとガロージは、近くのフランスに上陸し、医者を連行してくること命令した。
そこで田舎町の医師ギベル(アンリ・ヴィダル)が強制的に連れて来られると、すぐさま潜航を命じて・・・
終戦を挟んで繰り広げられる人間群像を描いた傑作。
敗戦が決定的となったドイツ。それぞれが、都合の良いことを言うが、結局はドイツには戻らず、国外逃亡を図っている人間たちだ。そこに、拉致されて来たフランス人医師が絡む。
映画は、その医師の視線で描かれていく。当然、医師は、用が済めば殺されると直感し、乗組員のひとりに伝染病の疑いがあると嘘をついて生き延びようとする。その結果、嫌悪感を催させる人間ドラマに立ち会うことになる。
特権を乱用する将軍。妻が彼の愛人であると知りつつ、強くでられないイタリア人の夫。残忍なことを平気でしてきたであろうゲシュタポ(秘密警察)の高官と殺人をも厭わぬ手下。そして売国奴のフランス人記者。
皆が当然、身勝手な人間たち。どことなく、中立的に描かれるのはノルウェーの学者父娘。ただし、逆に乗組員にも医師の協力者がでてくる。
しかし、クレマン監督は誰の心にも『悪魔』が潜んでいると描いていくのだ。
なまじ、戦闘シーンがないゆえの閉塞感と、海という逃げ場のない場所で繰り広げられる絶望的な人間模様。
映画は、中盤、ドイツが降伏したと高官たちが知るあたりから、一層、絶望的な状況へと進んでいく。
帰国の意志はないくせに、心の拠り所を失う人間たち。しかし、事実は乗組員らには知らされない。それがどういう状況を産んでいくのか。
浮かんでくるのは同じドイツ人であっても、ナチスに心酔しているか否か。そして南米に無事、着いても、既に母国は崩壊しているという状況下である。当然、戦犯として扱われる人間もいる。
彼らに残されたのは一抹の夢か。はたまた、果て無き野望なのか。そして、拉致されたフランス人医師は、彼らが狂気を帯びてくる中で無事に生き延びられるのか。
そういった畳み掛けるような展開を狭い艦内で描写していくカメラが素晴しい。
絶望的状況下で進行する人間の狂気や弱さ。メリ ハリのある展開にして、簡潔な進行。
見事としか言いようがない作品。