潜水艦浮上せず – LUPI NELL’ABISSO(1960年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ

監督: シルヴィオ・アマーディオ
原案: S・アマーディオ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
脚本: ジーノ・デ・サンクティス、S・アマーディオ
カルロ・ロマーノ
撮影: ルチアーノ・トラザッティ

キャスト

艦長 / マッシモ・ジロッティ
甲板長 / フォルコ・ルッリ
副官 / ジャン・マルク・ボリー
電信技士 / アルベルト・ルーポ
新婚者 / ホルスト・フランク
荒くれ者 / ピエトロ・ルッリ
警報器係 / ジャンカルロ・スブラージャ
技手 / ニーノ・ダル・ファブロ
重傷兵 / ジョルジョ・チェリオーニ

日本公開: 1962年
製作国: 伊仏合作 サジタリオ・フィルム他作品
配給: イタリフィルム社


あらすじとコメント

今回もイタリア製の潜水艦映画。ただし、「希望」ではなく、人間のエゴと究極の選択を描くシブい作品。

第二次大戦下、大西洋上。戦闘を終え、帰路についた一隻のイタリア海軍潜水艦。洋上は穏やかだ。乗組員たちは、海を眺めて、それぞれの休暇を夢見ていた。

すると敵の航空編隊と遭遇。艦長(マッシモ・ジロッティ)は、急速潜航を命じるが、次々と爆撃を受け、艦は海底へと降下していった。エンジンは完全にストップし、救援用の無線装置も破壊され、負傷者も続出していた。艦はやがて110メートルの海底に着地した。

損害を調べると再浮上することは不可能だと判明。後は、脱出用ポッドでの離艦しかない。

艦長は甲板長(フォルコ・ルッリ)を伴ってポッドの場所へ行くが・・・

閉塞感溢れる潜水艦内で起きる極限の人間模様。

はっきり言って、暗くて嫌な映画ではある。

ストーリィ進行は、海底から脱出するにはワイヤーで繋がれている密封式の一人用脱出ポッドで、何度も海上にピストン輸送するしかない状況だと解る。だが、そのワイヤーが切れていたので、たったひとりしか、海上に脱出できなくなる。

妻に先立たれている艦長はポッドを破壊し、全員で玉砕しようと言うと、独身の中年甲板長が、たったひとりでも生存できるなら、そうするべきだと反論する。思い悩む艦長。お互いは、自らは残ろうと決心している心情は察し合えた。

結果、艦長は友軍基地まで目前であるので、夜が明ける30分前に乗組員に事実を話し、誰を脱出させるか決めるまで、そのことを隠そうとする。

そこが間違いの始まりである。

艦内にいるのは二人の他に、裕福な家庭に育ったボンボンの新任副官、新婚の21歳青年、病気の老母と身障者の妹の面倒を見ているという技手、帰還すれば営倉入りが決まっている荒くれ者、五年連れ添った妻から来た最後の手紙で自分が裏切られたことを知ってしまった警報器係など、10名である。

当然、途中で真実が明らかになり、個人のエゴが露骨にでる展開となる。ここが、日本の軍隊では考えられないと感じた。

今まで紹介してきた『潜水艦映画』では、少なくとも乗組員は家族であり、狭い艦内で寝食を共にし、死ぬときは一緒であるという連帯感や信頼関係の上に成り立つ男たちの世界であった。

それなのに、ひとりだけが助かるとなると状況が一変するのだ。誰も、艦長の言うことを聞かなくなり、己がどうやって助かろうとするのかという、尋常ならざる世界になる。

相手を威圧しようとする者、懇願する者や、くじ引きで公平に決めようと進言する者など様々。艦内は混乱の坩堝になっていく。

本作では登場人物全員が、敢えて個人の名前でなく、役職名で呼ばれる。そこに、やはり閉塞感溢れる中で、白熱した議論が繰り広げられる秀作の一本、「十二人の怒れる男」(1956)の影響が見て取れる。その映画でも、人名ではなく、『陪審員何号』と呼ばれる。

また、八人乗りの小さな救命ボートで海上を漂う中、人間のエゴが暴発する「二十七人の漂流者」(1956)、更には、首刈族のいる密林に不時着し、乗ってきた小型機を修理して脱出しようとすると、結局数名が、その場に残らざるを得なくなるという「地獄の翼」(1955)といった作品群の影響をも感じ取れる。

しかし、どれとも違うのが、偶然居合わせた他人ではなく、家族のように生死を共にしてきた仲間たちであるという点。

そこでの本性剥き出しには、見ていて別な感慨が浮かんだ記憶がある。

一体、最後はどうなるのか。ある意味、予定調和となるのか。

残念ながら、ビデオもDVDも発売されていない。地味な白黒映画であるし、深夜枠でのTV放映も期待出来ないであろう。

最後にTV放映されたのを見てから、もう30年近く経つ。しかし、鮮明に覚えている作品の一本。

自身も歳を重ねた。人生の後半戦に突入している現在、再見すると、当時と同じ印象を持つのだろうか。

余談雑談 2010年1月9日
正月、暇に任せてネット・サーフィンを楽しんでいた。 すると、イギリスで、またもや、一生再見することは絶対にないだろうと、あきらめていた作品が、DVDで新発売されたと知った。確か、ビデオでも未発売であった映画だ。 ずっと以前であるが、ここでも