再手術が決まり、暫くは酒が飲めないからと、入院前日に「我が心の酒場」へ出向いた帰り。日毎に伸びる西日を眺めながらバスに乗っていると建築現場からの帰りらしい職人が二人乗ってきた。
ひとりは短髪で白髪が目立つ酒焼けしたヴェテラン。もう片方は茶髪の若者。彼らはこちらの近くに座り、話を始めた。
聞くとはなしに会話を聞いていた。その中で、『自分は』という言葉の使い方が気になった。
若者が「同級生は次々と結婚してるけど、自分はダメです」と呟いた。するとヴェテラン氏は「女のせいにしてるけど、自分はどうなの?」と返したのだ。二人して『自分は』と言っていたが意味が違うな、と。一人称である『I』と、二人称の『YOU』である。それでも、会話が成り立っていた。
決して学歴は高そうではないが、何となく良い感じがした。文法上の言葉尻を気にする自分などより、余程素直な生き方だと。
バスを降りても、まだ西日が眩しかった。