浮雲                昭和30年(1955年)

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スタッフ

監督:成瀬巳喜男
製作:藤本真澄
脚本:水木洋子
撮影:玉井正夫
音楽:斉藤一郎

キャスト

幸田ゆき子 / 高峰秀子
富岡兼吉 / 森雅之
富岡邦子 / 中北千枝子
おせい / 岡田茉莉子
向井春吉 / 加東大介
伊庭杉夫 / 山形勲
飲み屋の娘 / 木匠まゆり
屋久島の小母さん / 千石規子
仏印の試験官 / 村上冬樹
加納 / 金子信雄

製作国: 日本 東宝作品
配給: 東宝


あらすじとコメント

日本映画を語る上で、避けて通れない名作の一本。破滅的な愛の行方をキッチリと描く絶望的な秀作。

昭和21年初冬。終戦後一年以上も経って、やっと引揚げ船で帰国した幸田ゆき子(高嶺秀子)は、すぐさま東京の渋谷近くに住む、かつての恋人富岡兼吉(森雅之)を訪ねた。

二人は農林省時代の仏印赴任中、不倫関係だったのだ。現地で、妻と別れて一緒になるという言葉を信じ、帰国したゆき子。しかし、富岡は農林省を辞め、家族と暮らしながら、得体の知れない仕事に就いているようだった。

それでも、ゆき子は・・・

絶望的な恋の道行きを底冷えのする進行で魅せる日本映画史上に残る秀作。

内容は、ありがちな不倫ドラマである。妻ある男が、海外赴任中に新たに来た独身女性に手を付ける。しかも彼女のみならず、現地女性にも触手を伸ばしている。それでいて、当然、帰国すれば家族と別れて君と一緒になるという決まり文句を言う。

それに一縷の望みをかける女。ところが、敗戦で状況は一変する。エリート意識が強 く、プライドも高い男。それでいて、自堕落。それでも、日本で二人の関係は復活し、ずるずると続いていく。

見ていて、いい加減に眼を覚ませ、と言いたくなる。しかし、やがて微妙に男女の立場が逆転していく。それでも、やはり二人の関係は切れないのだ。

そして、二人の関係が泥沼化すればするほど、作品自体も陰湿で、纏わり付くような粘着性を増幅させていく。

登場人物は皆、自己中心的で、弱い人間ばかりである。誰にも感情移入できなく、身勝手なそれぞれの感情の渦がこちらの胃を刺激して、気持ちが悪くなるほど。それでも、映画は淡々と、だが、飽きさせることなく進行していく。

それにしても、暗いといえば、これほど暗い日本映画も珍しい。

逞しくなっていく主人公だが、女として、やはり好きな男には、溶けるように流れていく。そんな「女心」を理性と本能で、敏感に感じ取り、肉体同様にねじり込んで行く男。そして、その『女』を絡め切ったと感じると、また、別な女に食指を伸ばしていく。

この女は、どんなタイプか、と見切り、且つ、ほぼ、瞬時に一番敏感な女の部分を濡らすのだ。その「イヤラシイ」という言葉以上の「男の淫靡さ」で、籠絡していく。

男の気持ちが浮き足立ったことに気が付いても、主人公である女は、そんな男を断ち切れない。

虫をも殺さぬようでいて何を考えているのか解らない男。方や強く生きようとする女。しかし、その裏にある本心をさり気ない一瞬の演技で、見事に、本当に鳥肌が立つほど、見事に演じる森雅之と高峰秀子。否や、それ以外の人物たちも、恐れ入るほど素晴しい。

そして、その、ふとした仕草を静かだが的確に、こちらに叩き付ける成瀬演出。他にも、セットから、照明、撮影、音楽と、どれを取っても一級品である。

ただし、観る側にも、かなりの感性と体力が要求される作品でもある。

非常に有名作であるし、例え未見でも、タイトルだけは聞き及んだことがあるであろう。しかし、敢えて言うならば、もし成瀬巳喜男作品を一本も見たことがなければ、最初に見てはいけない作品であろう。

恐らくは、その暗さと陰湿さゆえに、成瀬作品が嫌いになる可能性が『大』であろうから。

余談雑談 2010年5月25日
まだまだ入院中。だが、何とか退院の目鼻も見えてきた。 今までも、天気の良い日などは、病院の車寄せにでて、日向ぼっこを楽しんだりするのだが、『退院』の二文字を聞いてからは、陽射しも気持ち良く感じる。そこに、そよ風など吹けば、近隣神社の木々の新