スタッフ
監督: サム・ウッド
製作: サム・ウッド
脚本: ダドリー・ニコルス
撮影: レイ・レナハン
音楽: ヴィクター・ヤング
キャスト
ジョーダン / ゲーリー・クーパー
マリア / イングリット・バーグマン
パブロ / エイキム・タミロフ
オーグスティン / アルトゥーロ・デ・コルドヴァ
エル・ソルド / ジョセフ・カレィラ
ピラー / カティーナ・パキシノウ
アンセルモ / ウラジミール・ソコロウ
ラファエル / ミカエル・ラスムニー
フェルナンド / フォルチューニオ・ボナノヴァ
日本公開: 1952年
製作国: アメリカ S・ウッド・プロ作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
イングリット・バーグマンの出演作で繋げてみた。天下の二枚目ゲーリー・クーパーと競演した、彼女の魅力溢れる大作。
1937年スペイン、北部。とある深夜、スペイン義勇軍に参加しているアメリカ人ジョーダン(ゲーリー・クーパー)は、敵の軍用列車を爆破し、密かに町に戻ると、将軍から新たな任務を与えられた。
山岳地帯の渓流に架かる鉄橋の爆破である。期日は、友軍が反撃を開始する三日後。それには、峡谷に住むジプシーの協力が必要不可欠であった。しかし、そこの頭目パブロ(エイキム・タミロフ)は、以前のような勇猛さはなく、爆破に懐疑的であった。
困惑するジョーダンの前に、ジプシーと行動を共にするスペイン娘マリア(イングリッド・バーグマン)が現れて・・・
センチメンタルさと勇猛さを結合させた娯楽大作。
原作は自身もスペイン内戦に参加したノーベル賞受賞作家のアーネスト・ヘミングウェイ。ちなみに邦題「誰が為に~」の部分は『だれがために』ではなく、『たがために』と読む。
時は第二次大戦前夜。当時、スペインは1931年に王政から解放され、民主共和制が施行されていたが、政策の拙さから保守派と労働者たちを含む穏健派が対立し、やがてフランコ将軍率いる保守派の軍部が蜂起し、共和政府を倒そうとする内乱が起きていた。
しかも、ややこしいのは、保守派軍部にはドイツ、イタリア枢軸軍が加勢し、共和政府側にはソビエトが付いた。つまり、第二次大戦の前哨戦の場となっていたのだ。
ヘミングウェイら、当時「失われた世代」と呼ばれていた文化人たちは、こぞって、共和政府側に参加した。
ゆえに本作の主人公のアメリカ人が相対するのは、スペインの軍部とドイツ・イタリア軍なのである。
そこに絡むのが田舎町の町長だった父親を持つ娘。彼女は、軍部による反乱で両親を殺害され、自らも坊主にされ、辱めを受けた過去を持つ。それゆえ、本作でのバーグマンはショート・カットなのだ。というよりも、坊主から髪が生え、三ヶ月経ったという設定である。
そ して、重要な鍵を握るのが、ジプシー。ちゃんとした戸籍を持たず、どの国籍にも属さない人々。ヨーロッパ大陸を自由に移動し、ときには売春や窃盗などで生活を送る。
本作では、主人公同様、一応、共和政府側に付いている。
そういった人間たちが集まって、橋を爆破しようとする進行。
アメリカ人の大学教授、スペイン人の町長の娘、そして自由闊達なジプシー。誰もが、何故、行動を共にするのか不思議がる。
特に面白いと感じたのはジプシーたちの描き方。かつて豪放磊落であったが、現在では、死ぬことに恐怖感を抱くようになった頭目。それを尻目に一団を仕切る中年女。しかも、彼女は手相まで見られる占い師の素質を持っている。
ヘミングウェイ自身が絶賛したバーグマン、更には、彼自身を念頭に置いて書いたとも言われるゲーリー・クーパー両巨頭が目立つのは当然。
しかも、クーパーの衣装は、後の「レイダース」シリーズのインディ・ジョーンズの格好そのものである。
しかし、演技陣の中で、目立ったのはジプシーの頭目と、女傑を演じたエイキム・タミロフとカティナ・パキシノウ。この二名が、圧倒的な存在感を醸しだしている。
ただ、撮影時、丁度、第二次大戦に突入した時期でもあるので、大掛かりなロケーションは禁じられ、スタジオ撮影による合成場面が多用されるので、些か、安っぽさが目立つ。
それに、大スター二人を美しく見せるために、カットバックによるアップの多用が目障りとも感じた。二人が、共に写っている場面と、各々のアップに切り替わる時の顔の向きや立ち位置が微妙にずれて、醒めるのだ。
それに編集のリズム感も鷹揚で、上映時間の長さを感じさせる。
それでも、スペクタクルとラブ・ロマンスを両立させた数少ない大作作品としての価値に変わりはない。