一向に涼しくならない、とある夕刻。
昨今、暑さの所為で家に引き篭もり、とんと出掛けてないなと思い、しばらく振りに、無理して徒歩で、40分ほどかけて安酒場へ出向いた。
歩きながら、却って『熱中症』になりはしないかと不安を覚えながら、やっと店に辿り着き、いつも通りに飲んだ帰り、流石に帰りはバスだなと決めた。
西に傾いたままの陽射しが暑く、幾分か日没が早くなったとは言え、まだまだ、明るい時分。バスを待っているだけでアルコールが抜けそうな汗が噴出す。こういうときに限ってバスが遅れる。
突然、段ボール箱を抱え、小走りでやってきた若い女性に声を掛けられた。「あの、八百屋なんですけど、野菜いりませんか」
箱の中は、申し訳程度の野菜。売れ残って処分するぐらいなら、何とか完売したいのだろう。しかし、こちらはバス停でバスを待つ、単なる酔っ払いオジサンである。それでも、自分に向かって、真っ赤に日焼けしたスッピン顔で笑ってくると、ポリ袋もないらしくダンボールごと差しだしてきた。
黙って首を横に振ると、彼女は健気に箱を抱え、また小走りで、今度は自転車に乗った買い物帰りのオバサンに声を掛けた。前カゴから、野菜が見えているにも関わらずだ。
ふと心配になった。まさか、ある意味、『熱中症』じゃないよな、と。
そこでバスがやっと来た。乗り込みながら振り返えると、見えたのは自転車のオバサンの困惑顔であった。
でもな、こちらは仕事もロクにせずの飲酒帰り。それに比べりゃ、大したものだ、と。
そのうち、きっと良いことがあるよ、お嬢さん。