必死の逃亡者 – THE DESPERATE HOURS(1955年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ

監督: ウィリアム・ワイラー
製作: ウィリアム・ワイラー
脚本: ジョセフ・ヘイズ
撮影: リー・ガームス
音楽: ゲイル・キュービック

キャスト

グリフィン / ハンフリー・ボガート
ヒリヤード / フレデリック・マーチ
バード保安官補 / アーサー・ケネディ
エレノア / マーサ・スコット
ハル / デューイ・マーティン
コービッシュ / ロバート・ミドルトン
シンディ / メリー・マーフィー
ライト / ギグ・ヤング
ラルフ / リチャード・アイヤー

日本公開: 1956年
製作国: アメリカ W・ワイラー・プロ作品
配給: パラマウント


あらすじとコメント

ハンフリー・ボガート主演作で繋げてみた。で、監督は実力派のウィリアム・ワイラー。いかにも作劇の妙を感じられる逸品。

アメリカ、インディアナポリス。町の郊外にある一軒家。そこにサラリーマンのヒリヤード(ブレデリ ック・マーチ)一家が住んでいた。貞淑な妻、弁護士の恋人がいる娘、9歳になった息子の四人家族で、いかにも中流といったポジションの平和な家庭だった。

その朝も、息子は小学校に行き、恋人との交際に難色を示す父親を疎ましく思いながらも、父と一緒に出かける娘。

妻がひとり残り、掃除を始めると玄関のブザーが鳴った。ふと見ると見知らぬ男、グリフィン(ハンフリー・ボガート)が立っていた。ドアを開けるや否や、グリフィンは拳銃をかざすと彼の弟ハル、巨漢のコービッシュを呼び、家に入り込んできて・・・

脱獄囚が平和な家庭を脅かすサスペンス・ドラマの見事なる秀作。

ギャングや犯罪者の役を演じさせたら、第一級だったハンフリー・ボガート。方や、「セールスマンの死」(1951)などで、平凡な一市民を手堅く演じる役者として、不動の地位を確立していたフレデリック・マーチ。そんな二人がガブリと四つに組んだ作品。

映画は、平和な家族が迎える朝のシーンから始まる。

生真面目で、融通が利かなさそうな父親、妻は真面目だけが取り得そうで、亭主を立てつつ、子供らにも気を配る。

思春期から大人の女へと変わろうと している娘は、弁護士の恋人がいるが、父親が好ましく思っていないのを知っている。小学校の息子は生意気盛りの反抗期で、少しでも大人になろうともがいている。

典型的な中流家庭の姿である。ところが、ラジオから流れているのは凶悪な犯罪者三人が脱獄したというニュース。

その三人が妻を人質に立て篭もり、やがて家族が順次、帰宅してくるという展開になる。主犯は愛人に逃走資金を持たせて、この家へ向わせる。予定到着時間は真夜中で、それ以後は、解放するという。

果たして、それを信用できるのか。主犯も中々、頭が切れそうだ。大黒柱のサラリーマンも同様。

お互いが腹を探ろうとし合い、家族たちも勝手な思惑で事態を解決できないかと思案する。だが、相手は凶悪犯たちで、しかも拳銃を所持しているから、一か八かと運を天に任せるという暴挙にでてまでも、と考えるはずもない。

畳み掛けるようにサスペンスが喚起されていく。次は、きっとこうなるぞという、こちらの先読みを想定しつつ、それを外す展開はない。

何だ、じゃ、ありきたりの話かと思う人もいよう。しかし、その先読み可能な展開を、奇を衒う演出もなく、小手先のテクニックを駆使することもなく、だが、シッカリと画面から目を離させないまま進行させるワイラーの演出は見事である。

以前、ここでも扱った密室刑事ドラマの傑作「探偵物語」(1951)や、映画ファンのみならず、誰もが知っている「ローマの休日」(1953)を演出した監督である。

「ローマの休日」を見ても、気を衒った演出などないことが想起されよう。それでいて、あれほどの秀作を撮る監督である。

出演者も皆、役を咀嚼して名演だし、後手に回る警察側の描き方も上手い処理をしている。ありきたりな進行を、ありきたりに撮る実力。いやはや、お見事としか言いようがない。

オリジナルは、実際に起きた立て篭もり事件を題材にした小説。その後、作家本人が舞台用に脚本を起こし、ブローフドウェイで上演された後に、映画化された。

ちなみに舞台で、主犯のボガート役を演じたのはポール・ニューマン。映画でフレデリック・マーチが演じたサラリーマン役をカール・マルデンが務めた。個人的には、そちらにも興味が湧くが、見られようはずもない。

代わりに本作はDVDが発売されており、現在でも見ることが可能である。こういったところにも、見逃したら一生再見できない舞台と違い、映画としての愉悦があると言えようか。

余談雑談 2010年9月18日
昨今は、年老いた母親の手伝いで実家の「タバコ屋のオヤジ」の日々である。 特に、このところ10月1日からの値上げで、常連の愛煙家たちも「禁煙しなきゃ」やら、「安い品種に変更しようか」とか、「買いだめしなきゃダメかな」と連日大騒ぎでもある。 只