まだ正月気分の先週始めのこと。
初詣客や観光客でごった返す浅草を離れ、小一時間ほど寒空の中、徒歩で行き付けの安酒場に顔を出した。
そこは観光地でもなく、どこか忘れ去られた感のある場末で、昨今、益々、元気のない商店街も正月休みで、全部が閉店していた。
そんな中、商店街から更に路地を入った場所に、ポツンと赤提灯が灯っていた。ホッとする瞬間。
その酒場は、豚内臓のもつ焼きがメインだが、『魚』系の裏メニューがある。以前にも、ここで書いたが、常時あるメニューではないので、表立って書かないのだと。
その時は、「あら煮」があった。いつもは使用する部位が大体決まっているが、仕入先の休みの関係だろうか、去年の正月同様、無口な親父さんが「今日はブリの頭」しかないと申し訳なさそうに言ってきた。しかも値段は、通常と同じで300円だと言う。
一体、何の問題があろう。普通だったら、ブリの「カシラ」が片側全部出てくれば、高くなっても仕方がない。そこいらの店だったら、味付けや器にこだわり、高額な品として売ることを考えるだろう。更に刻み生姜、大葉などを高級感を演出するための『スパイス』としてあしらえたりして。
だが、その店は別なスパイスがあると感じた。それは『心意気』だ。
どこか優しさを感じる味付けに眼を細め、しみじみと正月を実感した。そして、店を辞すとき、例年のとおり小さな缶の「七味トウガラシ」をもらった。『お年賀』である。
帰って来た浅草は、まだ人でごった返していた。呼び込みも元気な露天風の「煮込みストリート」を含め、どの店も明かりを煌々と付けて、営業していた。
何故か、地元に帰って来て、北風が吹いた。どうか、親父さん、今年もよろしくお願いします。