スタッフ
監督: アンジェイ・ワイダ
脚本: イエージィ・アンジェイエフスキー
脚本: アンジェイ・ワイダ
撮影: イェージィ・ウォイチェク
音楽: フィリッパ・ビエンクスキー
キャスト
マチェック / ズビグニェフ・チブルスキー
クリスティーナ / エヴァ・クジィジェフスカ
アンジェィ / アダム・パウリコフスキー
ドレウノフスキー / ボグミール・コビエラ
ペニョンジェク / スタニスラフ・ミルスキー
スロムカ / ズビグニェフ・スコフロニュスキー
コトウィッツ / アルトゥール・モドニッキ
ホテルの女給仕 / ゾフィア・チェルニンスカ
日本公開: 1959年
製作国: ポーランド カードル・プロ作品
配給: NCC
あらすじとコメント
引き続きアンジェイ・ワイダ監督作品。当時、左派思想者たちから熱狂的に受け入れられた作品。前回の「地下水道」(1956)を見てから本作を見ると、ポーランドの置かれた状況が解りやすい。
※前回「地下水道」で、制作年度を(1958)と記しましたが(1956)の間違いでした。この場で訂正してお詫び申し上げます。
ポーランド、1945年5月のこと。6年に渡り、祖国を占領していたドイツ軍が連合国に対し全面降伏した。
とある片田舎の教会。サングラスをかけた若者マチェク(ズビグニェフ・チブルスキー)と年上のアンジェイ(アダム・ハウリコフスキー)は、県の党書記シュチューガを暗殺せよと密名を受け、待伏せしていた。そして二人は走ってきたジープ目掛けて銃を乱射した。
目的を果たしたと思ったのも束の間、相手は近くの工場に勤めるまったくの別人であった。驚いた二人は、近くの街にあるホテルに身を潜めた。
上に指示を仰ぐと、見つけだして殺せとの再指令がなされた。困惑しながらも、殺人は平気だとうそぶくマチェクは、ホテルのバーで働く美女クリスティーナ(エヴァ・クジィジェフスカ)を見初めた。何とか彼女の気を引こうとした矢先、ホテルでの新政府樹立祝賀会に参加するべく、シュチューガが現れて・・・
混乱から生き残った人間たちが更なる絶望へと突き進む姿を描く秀作。
ドイツ占領下でレジスタンス運動に参加していた人間たち。当然、仲間の多くは死に、自分もいつ死ぬか解らない状況下であった戦時中。そんな終戦間近の状況をえぐったのが、前回扱った「地下水道」である。
もうすぐ終戦という時期でも、必死に戦い、散っていた人間たち。それが、ドイツが降伏したことで一気に自由と平和が訪れた。
しかし、ポーランドの場合、勝手が違ったのだ。そのことを多少でも理解していないと本作は、甚だ難解な作品としてしか受け入れられないだろう。
戦時中、ポーランド陸軍は国内では壊滅し、ソビエトで組織化されていた。しかし、訓練を受けた軍人は少なく、レジスタンス運動には多くの一般市民が協力した。彼らは一致団結してドイツ軍と戦ったのだ。
しかし、終戦で状況は一変する。何故なら新政府は親ソビエト政権だったからである。つまり、熱狂的な愛国者たちは、自国を敬愛していたのであって、ソビエトは協力国という位置付けだった。
しかし政権の中枢を担うのは共産主義者たち。本作の主人公たちが付け狙うのは、そんな新政権の権力者なのだ。つまり、彼らは終戦にして、新たなる敵が登場したため、彼ら自身のレジスタンス運動は継続せざるを得ないということ。
非常に複雑で微妙な立場でもある。その一方で、狙われる党書記はスペイン内乱にも参加し、その後ソビエトへ亡命していたために、結果、重要ポストに就いた立派な男。しかも、当然、彼も『愛国者』なのである。
そんな党書記は妻子を残して亡命していたが、妻は死に、以後、息子は実姉に育てられていた。しかし、その姉はブルジョワとして羽振り良く生活している。そんな姉に育てられた息子が、どのように成長したかは容易に想像が付き、困惑している。更に実姉は主人公たちに、党書記を殺すように命じ続ける上官を匿っているという設定なのだ。
本来、終戦で浮かれるはずの全員が、素直に終戦を喜べない状況。更に主人公の若者と情を通じるバーの女も「地下水道」で描かれたレジスタンス作戦に参加していたという設定である。
また、ホテルではソビエトの軍人や、新政府で大臣になると思しき市長や、その部下といった実に多くの人物たちが「グランド・ホテル」よろしく参集している。
そこで主人公の若者が辿る刹那と葛藤。非常に印象的に使用される冒頭の教会や、キリスト像。
更に、一体何が『灰』と『ダイヤモンド』なのか。瓦礫の中で主人公が見いだすものは何なのか。
ワイダ監督の粗いタッチが目立つが、それでも、「解放されたポーランド」として国が置かれた立場と、国民、否や、市井の小市民たち、それぞれの存在意義と絶望。
日本人には想像も付かない世界が存在していたと痛烈に刻み込まれる秀作である。