質屋 – THE PAWNBROKER(1964年)

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スタッフ

監督: シドニー・ルメット
製作: ロジャー・H・ルイス、フィリップ・レンジャー
脚本: デヴィッド・フリードキン、モートン・ファイン
撮影: ボリス・カウフマン
音楽: クィンシー・ジョーンズ

キャスト

ナザーマン / ロッド・スタイガー
マリリン / ジュラルディン・フィッツジェラルド
ロドリゲス / ブロック・ピーターズ
オーティス / ジェームス・サンチェス
メイベル / セルマ・オリヴァー
テッシー / マーケタ・キンブレル
スミス氏 / ファノ・ヘルナンデス
ルース / リンダ・ゲイサー
タンジー / レイモン・サン・ジャック

日本公開: 1968年
製作国: アメリカ エリー・ランドー・プロ作品
配給: MGM


あらすじとコメント

今回もロッド・スタイガー主演作にしてみた。アクの強い脇役が多かった彼の代表作とも呼べる作品。地味で渋い作品ながら、人間ドラマの秀作。

アメリカ、ニュー・ヨーク。貧民街で質屋を営むナザーマン(ロッド・スタイガー)は、キューバからの移民オーティス(ジェイム・サンチェス)を雇い、日々、様々な客に応対していた。

しかし、ポーランド人であるナザーマンは第二次大戦中、強制収容所に入れられ、両親や妻子を殺害されていた。以後、彼は感情を押し殺し、妻の妹夫婦の家族と暮らしてはいたが、まさに生きる屍のような存在であった。

そん な彼の店へ、ある日、マリリン(ジュラルディン・フィッツジェラルド)という中年女性が現れて・・・

『NY派』と呼ばれた監督シドニー・ルメットの、その特性を活かし切った渾身の一作。

元々は大学教授であり、男女の子供を持ち、家族と楽しく過していた。しかし、戦争で強制収容所に入れられてから人生が一変した男。

自分では成す術もなく、家族を殺害された。そのことがトラウマとなり、まったく感情をださず、金にしか興味はないと言い張る男になった。

彼のトラウマはそれほど強烈であり、ささやかな生きる希望は、やはり、収容所で殺された友人の遺族と食事をしたりして過すことだけ。

そんな彼の日常を、淡々としながらも、時々挿入されるカット・バックによる当時の模様が、一層、彼の絶望的な心情を際立たせていく。

しかも来店する客たちも、難しい本を読んでは、主人公に話したくてしょうがない孤独な老人や、妊娠させられた少女、盗品を売り捌こうとするチンピラなど、それぞれが問題を抱えた人間ばかりである。

しかし、どんな人間が来ようと彼の心は閉ざされたままだ。そこに、社会福祉家の中年女性が寄付を求めに訪ねて来る。

その女性も亭主に先立たれた孤独な未亡人であり、以後、主人公の心に入ってこようとする。しかし、それをキッパリと迷惑であると突っぱねるのだ。

完全に、孤立し、絶望しているのだ。それでも、キューバ移民のアルバイトも商売を覚えたいと、明るく接してくる。それも彼にとっては鬱陶しいだけである。

ストーリィは、キューバ青年や、売春婦である黒人の彼の恋人、青年が以前関わっていた窃盗団のチンピラたちが関係してくる展開。

そんな中でも、主人公が一度だけ感情を露にする相手が、質店の実質的経営者である黒人の実業家だ。

しかし、その感情は、結局は自分に向けられたものであり、その感情を露にしたこと自体が、自分自身を更に孤独だと痛感させ、絶望感に打ちのめさせていく。

そして後半になればなるほど、フラッシュ・バックによる過去のシーンが増幅され、彼の『空虚』と呼ぶ以上に、『何もない』彼の真情が強調されていく。

どこまでも暗い作品である。出演者も彼の最高傑作と呼べる主役のロッド・スタイガー以外は皆、無名。だが、それぞれの醸しだす雰囲気は息を呑むほどリアルである。

そんな人間たちを更にリアルに映しだすNYの風景も、どこかで絶望感を強調している。また、クインシー・ジョーンズの音楽もモダン・ジャズ風で強烈な印象を残す。

そういったものが渾然一体となり、小市民であるポーランド老人の真情を紡ぎだしていく。

アメリカが移民の国であり、成功者もいれば敗残者も当然、存在とするという事実を、実にクールに、そして的確にえぐった秀作だ。

ただし、本当に暗くて陰湿な作品でもある。

余談雑談 2011年3月12日
皆様、ご無事でしょうか。 私事で誠に不謹慎ですが、私と家族全員が怪我もなく、無事なことを携帯等で連絡のつかない読者でもある