キャッチ22 – CATCH-22 (1970年)

メルマガ会員限定

画像を表示するにはメルマガでお知らせしたパスワードを入力してください。

スタッフ
監督:マイク・ニコルズ
製作:マーティン・ランソホフ、ジョン・キャリー
原作:ジョセフ・ヘラー
脚本:バック・ヘンリー
撮影:デヴィッド・ワトキン

キャスト
ヨサリアン大尉 / アラン・アーキン
キャスカート大佐 / マーティン・バルサム
ダンピー少佐 / リチャード・ベンジャミン
ネイトリー大尉 / アート・ガーファンクル
ドリートル将軍 / オーソン・ウェルズ
タップマン従軍牧師 / アンソニー・パーキンス
マインドベンダー中尉 / ジョン・ヴォイド
ダニーカ医師 / ジャック・ギルフォード
ドッブス中尉 / マーティン・シーン

日本公開: 1971年
製作国: アメリカ作品
配給: CIC


あらすじとコメント

第二次大戦を舞台にしたコメディ繋がりにしてみた。ただ、今回はシニカルで不条理的な展開を見せる不可思議な作品。

イタリア、シチリア島。とあるアメリカ空軍の爆撃隊基地。司令官は、自分が注目され、新聞に載りたいからと、爆撃隊が出撃回数をクリアする都度、目標を増加させる人物であった。

隊員のひとりヨサリアン大尉(アラン・アーキン)は、そんな過酷な命令から神経衰弱になったと帰国を願った。しかし、隊の仲間や司令官など、誰からも相手にされない。

せめて、出撃回数をどうにか減らせないかと模索するが、司令官は軍事物資を使い一儲けしようと提案したマインドベンダー(ジョン・ヴォイト)の方しか相手にしない。

思い余って、軍医に相談すると、それは「キャッチ22」だなと言われ・・・

面白いというよりも、複雑な感情を喚起させられるシュールなコメディ作。

タイトルにもある『キャッチ22』。これは、帰国理由に「自分で神経衰弱と言うのは、本当の神経衰弱ではない」という軍隊の隠語のことを指す。

まるで笑えない笑い話か、哲学的な暗喩とも取れる。ウッディ・アレンが扱うような神経質さを伴うコメディの設定だ。

しかし、本作は、もっとシュールに、時には残虐性まで垣間見せ、スケール感たっぷりに描いていく。

登場人物もユニークで、神経を病んでいる人間たちのオンパレードである。正規の軍事活動など一切、眼中にない司令官、戦争を大いなるビジネス・チャンスだと捉える男や、影の薄い軍医。一見、真面目そうだが、イタリア人娼婦を娼婦と認めず結婚を夢見る男。まったく頼りにならない従軍牧師、すぐに個人的感情で行動する将軍など。

俄かには信じ難いキャラクターばかりだ。確かにカリカチュアされてはいるが、本来のコメディアン俳優はひとりも登場しなく、どちらかというと性格俳優的印象が強い俳優に真面目に演じさせる。

ここに、かなり違和感を覚える人間もいるだろう。解りやすい皮肉を込めて描く場面もあれば、意味深長過ぎて、日本人には理解しがたい場面も連続する。しかも物語の進行自体が、現実の出来事なのか、主人公の夢の具象化なのかを曖昧にしている。

まるで、カフカの『自分は蝶になった夢を見た人間なのか、今現在、人間の夢を見ている蝶なのか』的進行である。

冒頭こそ、主人公が精神を病んでいると思わせるが、すぐに他の登場人物たちも狂気を帯びていながら平常に振る舞い、周囲の人間誰もがそれに気付かないという、結局、全員が精神を病んでいるというカタルシスの持って行き場のない迷宮に放り込まれる。

それが繰広げられるのが、荒れた岩肌とコバルト・ブルーに透き通る海が拡がるシチリア島である。しかも、夜のシーンこそあれ、一切雨が降らず、見事なまでの晴天下で描かれていくのだ。

その違和感。確かに、登場人物は将校ばかりだからかもしれないが、黒人が登場しないのだ。近くにアフリカがあるのにも関わらずだ。

何から何まで、計算づくで描かれる異質な人間ドラマ。爆撃機や軍装など、細かいデティールにこだわっているだけに、妙な陰湿さと焼け付く虚無さが際立つ。

様々なリアル感に満ちたデティールの中での戦争コメディは、前回扱った「戦略大作戦」(1970)同様なのだが、当時、泥沼化していたヴェトナム戦争の影響が、同じく強烈に感じられる。

大儀名分を感じられない戦争に参加し、多くの犠牲者がでていながら、現在進行中の戦争ゆえ、直接的に「ヴェトナム戦争」として描けない。そんなジレンマの中、題材に取ったのが「第二次世界大戦」。それをアクションではなく、コメディ要素を強調して描く。

「戦略大作戦」と同じく、狂気の集団の中にいれば、自分は狂気ではないと思う。否や、不感症でなければ生きていけない。

映画人たちの、持って行き場のない虚無感。シュール過ぎて、嫌悪感さえ感じさせる異色戦争作品である。

余談雑談 2011年5月28日
東京も梅雨に入った。例年より12日ほど早いとか。それに台風まで来ている。 ふと考えることは、誰も同じだろうか。入梅が早い分、明けるのも早いか、と。そして去年同様に、異常に暑くなるのか。考えただけでも、おぞましい。 それとも『想定外』で、冷夏