スタッフ
監督: ハワード・ホークス
製作: ジェス・L・ラスキィ、ハル・B・ウォリス
脚本: ジョン・ヒューストン、ハワード・コッチ、H・チャンドリー他
撮影: ソル・ポリト
音楽: マックス・スタイナー
キャスト
ヨーク / ゲーリー・クーパー
パイル神父 / ウォルター・ブレナン
グレイシー / ジョーン・レスリー
ロス / ジョージ・トビアス
バクストン少佐 / スタンリー・リッジス
母親 / マーガレット・ワイチャリー
ボトキン / ワード・ボンド
リプスコム / ノア・ベリー Jr
リム / ハワード・ダ・シルヴァ
日本公開: 1950年
製作国: アメリカ H・ホークス・プロ作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
ゲーリー・クーパー主演作で繋げてみた。だが、今回は西部劇ではなく、戦争映画。しかも実在したアメリカの英雄の話。
アメリカ、テネシーの片田舎。1916年のことである。ヨーロッパでは既に戦争が始まっていたが、この片田舎では、新聞さえ三日前のものしか届かない場所であり、まったく別世界の出来事であった。
そこに荒くれ者の青年ヨーク(ゲーリー・クーパー)がいた。家族は老母と弟と妹。しかし、彼の家は貧乏で、荒地を耕しても農作物も満足に成長しない場所だった。彼の心はすさみ、信仰心もなく酒を飲んでは、銃を乱射して暴れまわる日々を送っていた。パイル神父(ウォルタ-・ブレナン)らの心配を他所に、それでも母親は暖かい目で彼を見ていた。
そんなヨークは近くに住むグレイシー(ジョーン・レスリー)という娘を見初める。何とか気に入られたいと願うが、貧乏のままでは彼女にプロポーズもできない。心機一転した彼は肥沃な土地を購入すべく、肉体労働のアルバイトなどで金を得ようとするが、当然足りない。
そこで彼は得意のライフルで、射撃大会で優勝し、賞金の独り占めを狙おうとするが・・・
実在の人物を映画化した、ホークス監督の野趣溢れる佳作。
第一次大戦が始まっているが、主人公の住むアメリカの片田舎は、まだ 西部劇の世界がそのまま残っているような場所。
地元の英雄は熊と格闘し殺した「ダニエル・ブーン」というアメリカ独立に貢献した男である。そんな彼は、主人公の憧れでもある。
素直だが粗野。猪突猛進タイプだが、以外にシャイ。主人公は実在の人物だから、当然、美化されているだろう。
開拓時代の人間を彷彿とさせる人物が、恋敵の邪魔を腹に据えかねて射殺しようとするが雷に打たれ、自慢の猟銃が破裂し、それを見て一挙に改心する。
そこまでは割と正統的に進行してきたので、いきなりの変調はまるでコメディかと思えた。
しかし以後、彼は熱心なキリスト教信者となる。この『破裂した猟銃』と『改心』という設定が後半部の重要な鍵を握る。
戦争が激化し、アメリカも参戦したことによって主人公は兵役に取られるが、宗教上の理由で拒否。当然、軍なり、政府関係から目を付けられるが、結局は兵役に就くことになる。
しかし、戦争とは言え、人を殺すのは聖書の教えに反すること。思い悩む彼の真摯なる宗教心に生真面目さを見た上官が、自分で悟りを開かせようとする場面は、完全に「十戒」のモーゼに重なる。
かなり宗教色の強い展開にして、アメリカ国民であることの「愛国心」をも増幅させる展開であり、どこか教条的鼓舞も感じる。
結果、戦場に赴いた彼は、得意の射撃と勇猛さで英雄となる。しかし、英雄として帰国後、「アメリカン・ドリーム」の体現者となれる数々のオファーを蹴り、故郷に戻っていくのだ。
劇中にもでてくるが、映画化の話もあったが、ヨーク本人は申し出を断っている。それなのに、何故、本作が映画化されたのか。
それは「時代」である。丁度、第二次大戦が始まっていた時期。再度、世界が戦争を始めたことに、彼の『愛国心』が揺れ動いたのだという。
そして、映画を知らないヨークは、主役には数少ない名前を知っているゲーリー・クーパーを指定し、相手役はいかにもタバコを燻らす「近代的」なハリウッド女優でなく、自分の妻同様、清楚な美人ということで、16歳の新人を抜擢させることになったのだ。
今となっては、すべてが喜劇かと思えるが、映画自体は良く出来ている。特にクライマックスの戦場シーンは迫力がある。それは、ひとえにホークス監督の実力の賜物であると考える。
田舎者の主人公ヨークが、大都会ニュー・ヨークでの凱旋パレードで絶賛を浴びるという皮肉。しかも、「9・11」以降に本作を見ると、「アメリカ合衆国」の歩んできた道と、個人が持つ愛国心やハリウッドがあまり教育レベルの高くない国民に与えようとしたプロパガンダを際立たせていると感じる。
結果、歴史が証明したように、それらが渾然一体となって、浮かび上がっている本作の存在そのものが「痛烈なる皮肉」となっている。