スタッフ
監督: ロイド・ベーコン
製作: ウィリアム・パールバーグ
脚本: ヴァレンタイン・ディヴィス
撮影: ジョー・マクドナルド
音楽: ライオネル・ニューマン
キャスト
シンプソン / レイ・ミランド
デボラ / ジーン・ピータース
ラーニガン / ポール・ダグラス
ストーン / エド・ベグリー
ドーラン / テッド・デ・コルシア
グリーンリーフ / レイ・コリンズ
グリーンリーフ夫人 / ジェシー・ロイス・ランディス
シュミット / アラン・へール Jr
イスベル / ビル・マーフィー
日本公開: 1950年
製作国: 20世紀フォックス作品
配給: 20世紀フォックス
あらすじとコメント
前回は実在したメジャー・リーガーを扱った作品を紹介した。今回も野球で繋げたが、アメリカで「野球映画」といえば、ヒューマンなもの、ファンタジーなど、様々な作劇で作られてきた題材でもある。そんな中で、今回はコメディ。
アメリカ。某大学の科学部教授であるシンプソン(レイ・ミランド)は、大学総長の娘デボラ(ジーン・ピータース)と恋仲だった。彼は結婚を願っていたが、それには、それなりの金が必要だと考え、「森林に於ける害虫駆除薬」の開発に密かに取り組んでいた。それさえ完成すれば、製薬会社に売り込め、かなりの大金を得られるからだ。
試行錯誤の末、何とか完成間近までこぎつけていた。そんな彼はデボラを連れ、研究室で説明し、求婚しようとした矢先、外のグラウンドから野球のボールが飛び込んで来て、試薬を滅茶苦茶にしてしまう。
意気消沈のシンプソンはデボラを帰すと、憎き野球ボールめ、とばかり投げつけた。
すると、何とボールが木製品を避けてしまって・・・
単純明快にして王道をゆく野球コメディの佳作。
偶然の産物で『木製品』を避ける薬が誕生。つまり、それをボールに塗れば、現在とは違い、バットは木製しかなかったので、絶対に当たらないのだ。
結婚資金が欲しい主人公は大の野球好き。考え付いたのは、自分がピッチャーになるということ。
何のひねりもない、単純な設定ではある。制作された年代を考えれば、仕方ないとも思えるが、逆に、これほど素直に、且つ、単純に進行すると、「お見事」と手を叩きたくなる。
しかも、主人公は、その「秘薬」一瓶だけを持って、周囲に黙ってセント・ルイスに行き、大リーグのチームへ『魔球』を投げるピッチャーとして見事合格。彼は身分を隠し、偽名で「一勝1000ドル」で契約と相成る。一方で、大学側は突然の行方不明で捜索願をだす始末。
当然、ことはややこしくなるという、ある意味、『スクリュー・ボール・コメディ』である。しかも、本作は野球映画で、主人公がピッチャーという設定。まさしく「スクリュー・ボール(変化球)」な映画なのだ。
そんな主人公がボールを投げると、バットの上を「ヒョイと」避ける場面は微笑ましくもあり、笑い転げるシーンだ。そして次々と強打者とバッタバッタと切っていくから痛快。
そんなこんなの進行を見せつつ、恋人がやって来て、主人公が派手な私服を着て、他の選手たちと親しげにいる姿に「マフィア」になったと誤解したり、報奨金で買って、送り付けた高価な指輪を、宝石強盗の戦利品だと驚いたりとコメディ色全開で進んでいく。
さてさて、最後はどういうピンチが起き、どう収まるかを想像しながら追っていくと、成程、そう来たかというオチで微笑んでしまう。
キャストの中では、主人公の相棒である捕手役のポール・ダグラスが素晴らしい。コメディから、ふてぶてしい悪役まで演じる性格俳優であるが、完全に他の役者たちを圧倒して好演。
特に主人公のレイ・ミランドは、ジェームス・スチュワートでも、ケーリー・グラントでも良いかなと思えるし、恋人役のジーン・ピータースも、新星らしくややオーバー・アクトと感じる。
だが、本作の最大の立役者は、脚本を書いたヴァレンタイン・デイヴィスだろう。彼はクリスマス映画の秀作「34丁目の奇跡」(1947)で、「サンタクロース」の実在性を、ファンタジーとして、また ヒューマニズム溢れる作品として描いた男。次々と起きる展開を、どこかおっとりとしたリズムで描いていく。
同時代の人間として、一時期、日本でも人気が再燃したプレストン・スタージェスと比べられた脚本家でもある。似たようなコメディ設定を、全く違う視点と進行で見せるので、好き嫌いは別れようか。
しかし、どの道、両名とも現代のスピード性と欲張った展開に慣れた観客からみれば、眠気を催す作家と位置付けられるかもしれない。それはそれで仕方ないことではある。
映画の題材として、使用頻度の高い「野球」。その中でもコメディとして描かれることも、シリーズ化された「メジャー・リーグ」(1989~)などを見ても解るように多い。
だが、「野球コメディ」に関して個人的には、本作と未公開でビデオ発売されただけの「大穴!特攻草野球/万歳スタジアム」(1987・TVM)が双璧である。