スタッフ
監督:ハル・アシュビー
製作:ロバート・F・プラモフ、ハロルド・レヴンソール
脚本:ロバート・ゲッチェル
撮影:ハスケル・ウィクスラー
音楽:レナード・ローゼンマン
キャスト
ガスリー / デヴィッド・キャラダイン
ビュール / ロニー・コックス
メアリー / メリンダ・ディロン
ポーリン / ゲイル・ストリックランド
ロック / ジョン・レーン
スリム / ジ・ツ・ガンバカ
ジョンソン / ランディ・クェイド
スー・アン / メアリー・ケイ・プレイス
リズ / エリザベス・メイシー
日本公開: 1977年
製作国: アメリカ R・F・ブラモフ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
今回も大不況だった1930年代を背景にした作品にしてみた。圧倒的に情報量も少ない時代に、己の才覚で、必死に生きようとした人々。前回の肉体ひとつで生き延びようとする男と違い、今回は、実在したカントリー歌手の半生を描いた作品。
アメリカ、テキサス。1937年ことである。世界恐慌の真っ只中で、失業者が増え続けいていた時期。とある片田舎で、両親ら家族と暮らすガスリー(デヴィッド・キャラダイン)は、仕事もないのに、楽天的に生きていた。
妻は心配するが、焦る気はない。しかし、友人たちが町を捨て、新天地として、カリフォルニアに活路を求め、でていく光景に直面し、対岸の火事ではないとの気になる。
とりあえず、「占い師」として活動するが、対価として金品を貰うことを躊躇してしまう。また、少しばかり「看板書き」の才能があるのだが、自分の意見を押し通す性格が災いし、またもや金儲けには繋がらない。
いよいよ生活も苦しくなった彼は、意を決すると、家族に置手紙を残し、単身『夢のカリフォルニア』に向け、荷物も持たずに旅立った・・・
過酷な時代、虐げられていた労働者に向け、歌手活動を行った実在の人物を描く。
現在も世界的「不況」と言われているが、比べ物にならないほどタフな時代。主人公は、楽天的と言えば聞こえは良いが、我関せずに生きている男。
程々に当る「占い」や、「看板書き」、ギターを弾いて自作の歌を作る才能などを持ち合わせるが、それで身を立てようとは思っていない。
厭世的というよりも、世捨人のような存在。小さな子供を二人も抱えているのに、切迫感はない。そんな主人公が、いよいよ妻に愛想を尽かされそうになり、やっと思い立って、「夢の新天地」で一旗上げようと旅立つ。
導入部は、そんなやる気のない主人公を描きだす。そして、ヒッチハイクや、貨物列車への無賃乗車でカリフォルニアを目指して行く。
その過程で綴られる旅のシークエンスは実に素晴しい。
金もなく、絵筆だけを持ち、着のみ着のままだ。敏捷さもなく、要領も良くない。しかも根は真面目で、タダで食事を恵んでもらおうという気もない。何かしらの労働で返そうとする実直な男。だが、女性には眼がない。
旅の途中で知合う『流れ者』や『労働希望者』たち。そんな人間たちとの一期一会があり、いかにもアメリカン・ニュー・シネマ的ロード・ムーヴィーとして進行していく。
苦難の果てにカリフォルニアに到着するが、そこは「夢の新世界」ではないという現実が待ち構えていた。結局、仕事もなくブラブラしているとラジオで人気の歌手が慰問と称して、彼がいる難民キャンプにやってくる。
そこから映画はまた変調する。その人気歌手は「組合」をつくり一致団結して資本家たちに対峙しようと叫ぶ。
初めこそ他人事と思う主人公だが、歌の上手さを認められ、一緒に組合啓蒙活動に参加し始め、自身も人気歌手へと成り上がっていく。
そこで恋に落ちるのが『救世軍』のように、無料で食事を提供する女性。しかし、彼女の実態を知るに至り、貧富の差を痛切に感じ、更に組合活動に傾倒していく。
それから、やっと妻子を呼ぶが当然、大資本家であるラジオ局のスポンサーたちと対峙し、名声と共に、孤立化していくという波乱に満ちた展開を見せる。
劇的に盛上げるよりも、淡々とリアルな空気感を切り取って繋げていくハル・アシュビー演出。
最終的には『大いなる組合啓蒙映画』になるのが、玉に瑕であるが、貧富の差や、貧しいながらも必死に行きようとする人間たちを静かに見つめる視点はやわらかく、心地良い。
だが、「搾取側」と「非搾取側」を、ステレオ・タイプに描き過ぎるので、途中から疲れてくる。上映時間も2時間半近い。
大きなアメリカという大地を感じさせ、どれほど労働者、もしくは労働希望者が虐げられたかを知るには好材料である。
そして、現在不況と言いながらも、日本人はこういったレベルまでには至ってないと安堵できるだろうか。