スタッフ
監督: キャロル・リード
製作: エドワード・ブラック
脚本: シドニー・ギリアット、フランク・ローンダー
撮影: オットー・カンツレク
音楽: ルイス・レヴィ
キャスト
アンナ / マーガレット・ロックウッド
ベネット / レックス・ハリソン
マーセン / ポール・ヘンリード
チャーターズ / ベイジル・ラドフォード
コルディコフ / ノートン・ウェイン
ボマーシュ博士 / ジェームス・ハーコート
フレデリックス博士 / フェリックス・アイルマー
ドレイトン / ウィンダム・ゴールディ
カンプエンフィールド / レイモンド・ハントレイ
日本公開: 未公開
製作国: イギリス
制作プロ: 20世紀プロダクション
あらすじとコメント
前回の「上海から来た女」(1947)は制作されてから、長らく日本で公開されなかった幻のサスペンス映画。だが、それはまだ良い方だ。何故なら、今回の作品は未公開のままだから。
チェコスロバキア、プラハ。第二次大戦前夜の1939年、ナチス・ドイツが、まさにチェコに侵攻しようとしていたとき。
頑丈な鋼鉄開発に携わるボマーシュ博士は、ドイツが強制的に自らを利用しようとしていることを知り、娘のアンナ(マーガレット・ロックウッド)とイギリスへ避難しようとした。だが、そのことをナチスに知られ、博士は何とか逃げおおせたが、アンナは捕まり、強制収容所に送られてしまった。
彼女は、そこで元教師のマーセン(ポール・ヘンリード)と知り合う。彼もナチスを憎んでいることから、すぐに意気投合する二人。
そんな二人は、仲間の手引きで脱走に成功し、彼女の父親が待つイギリスへと逃げ延びた。しかし、父親の行方は一向に解らない。
数日後、彼女だけでベネット(レックス・ハリソン)に接触しろと匿名の連絡が入って・・・
イギリス映画絶頂期のサスペンス映画の秀作。
上記のストーリィ説明では、なぜドイツの「ミュンヘン」への夜行列車が関わっているのか、と不思議に思う方もいようか。
当然、映画はそこから二転三転としていく。脚本を書いたのは、後にイギリス映画史に、その名を刻む傑作中の傑作「絶壁の彼方に」(1950)を発表するシドニー・ギリアット。物語は単純ながら、非常に凝ったストーリィ・テリングで観る者をグイグイと引き込む名手である。
本作でも、その力量がハッキリと解る。ナチスから逃れようと、父娘の父親だけが脱出に成功し、やがて娘も脱走に成功し、感激の再会となるのだが、その前に、一度、物語は突然の変調を見せる。
そのことを知るのは、当然、観客のみであるから、否が応でも、先行きに起きるであろう父娘への危険に心臓の鼓動が高まる。
そこで、やっと主人公が登場するのだ。しかも、二枚目ながら、どこかトボけて、コメディかと思わせる意外な登場のしかた。
そういった絶妙の筋運びで、ある意味、観客の先読み通りにストーリィは転がっていき、一難去って、また一難というハラハラ・ドキドキの展開が待ち受ける。
監督は白黒の陰影をこれでもかと見せ付けたスリラー映画の金字塔「第三の男」(1949)や、「邪魔者は殺せ」(1947)等を輩出したキャロル・リード。
ただし、タイトルにもなっている「夜行列車」のパートは、いささか肩透かしを喰らった。というのも、そこでメインの展開が待ち受けると思いきや、あくまで通過点のひとつ、という扱いだからである。
しかし、逆に考えれば、それだけサービス精神に満ちた展開が更に起こるであろうと想起させる、心憎い脚本の妙だとも受け取れる。
確かにリード演出は、列車という揺れる不安定さや、スピード感といった、いくらでも映像的にサスペンスを盛り上げる手法があるのに、敢えて、そういう観点での演出には心砕していないと思わせるし、何よりもヒロインを演じるマーガレット・ロックウッドが魅力的ではないのが一番のマイナスだろうか。
ただし、軽薄そうで自惚れが強いが、実に品のあるヒーロー役のレックス・ハリソンは実にチャーミングで、ジェームス・ボンド役を演らせたら、天下一品だったろうと思わせる名演。
それに、ヒロインと一緒に脱走し、以後、常に付いて廻るポール・ヘンリードも「カサブランカ」(1942)でのバーグマンの亭主役とは、また違うイヤラシサを漂わせてニヤリとさせられる。
しかし、何といっても、本作の最高のムード・メーカーは、中盤から登場してくる、夜行列車に乗り合わせるイギリス人でクリケット好きの二人組。
このコンビ、コメディ・リリーフ役なのだが最高である。何故なら、このコンビは、別な傑作映画で全く同じ役柄で出演しているから。その作品とは、
来週にしましょうか。
いくつかの難点は散見するが、それでも本作は見事に面白い作品であると位置付ける。