戦艦シュペー号の最後 – THE BATTLE OF THE RIVER PLATE(1956年)

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スタッフ
監督:マイケル・パウエル、E・プレスバーガー
製作:M・パウエル、エメリック・プレスバーガー
脚本:M/パウエル、E・プレスバーガー
撮影:クリストファー・チャリス
音楽:フレデリック・ルイス

キャスト
「エグゼター号」艦長 / ジョン・グレッグソン
ラングズドルフ / ピーター・フィンチ
ハーウッド提督 / アンソニー・クェイル
「アジャックス号」艦長 / イアン・ハンター
ダヴ船長 / バーナード・リー
「アキレス号」艦長 / ジャック・ギリム
マッコール海軍武官 / マイケル・グッドリフ
メドリー少佐 / パトリック・マッキニー
マノーラ / クリストファー・リー

日本公開: 1957年
製作国: イギリス アーサー・ランク作品
配給: BCFC、コロンビア


あらすじとコメント

今回も第二次大戦下のドイツとイギリス両海軍の戦いを描く作品。戦争映画らしからぬ、気高いドイツ士官をメインに、独特の色彩で描く異色作。

東アフリカ洋上。1939年11月、『海の虎』と呼ばれるドイツ軍の小型戦艦グラフ・シュペーが、イギリス商船を撃沈した。

捕虜になった商船船長ダヴ(バーナード・リー)は、思いの外の歓待を受け、驚く。シュペー号艦長ラングスドルフ(ピーター・フィンチ)は、同じ『海の男』として、彼に艦を披露し、補給スタイルまで見せた。更に、撃沈されたイギリス商船関係者も乗船してくるが、彼らにも同じ人間として歓待する。

一方で、イギリス海軍は、大胆なる行動を取り、次々と商船を撃沈するシュペー号を制したいと願っていた。そんな中、南大西洋を守る3隻の巡洋艦隊がいた。指揮を取るのはハーウッド提督(アンソニー・クェイル)。

提督は、今までのシュペー号の行動から、南米ウルグアイの首都モンテビデオに近い河口付近にやって来ると推論付けるが・・・

敵であるドイツの気高さを強調させながらも、結局、政治的に利用される姿を描く海戦映画の佳作。

ネルソン提督の頃から世界に名を馳せた英国艦隊。しかし、第二次大戦初頭では、完全に後手に回っていた。

そんな中、ある意味、意表を突く作戦を立案実行するドイツの小型戦艦。艦長は、かなりの切れ者である。

イギリス映画でありながら、先ず、「敵ながら天晴れ」というスタンスを強調させる作劇は興味深いと感じた。しかも、その艦長は、気高さを感じさせ、敵といえども捕虜にした敵の船長を、同じ『海の男』として認め、自分らの実態や作戦スタイルを説明させることにより、観客にも理解を促進させる手法を取っていく。

これもかなり異種な作劇である。ストーリィは中盤から、この艦を撃沈すべく翻弄するイギリス海軍が加わり、シュペー号とイギリス海軍3隻との洋上砲撃戦という迫力ある戦闘シーンを映しだす。そのシーンは見ものである。それぞれの艦船が艶めかしく、踊っているような錯覚に陥らせる編集。

ただし、傷つきながらも善戦したシュペー号が、中立国ウルグアイに逃げ込んで以降、映画は別な側面を見せ始める。

そこにはドイツ大使館があり、当然、敵対する英仏大使館もある。再航行用修理は認めるが、軍備の増強等は認めないという、当時の国際条約を楯に、双方の大使が小国ウルグアイを懐柔、脅迫するという政治的駆け引きへと変調していく。

イギリス海軍側は、一隻が大破し離脱しているので、残った二隻だけでは、再度対峙したら、勝利できるかどうかという不安を抱えたまま、近海上で待機している。

一方で、シュペー号自体も大破しているが何も出来ないというジレンマを抱えたままの停泊である。

つまり、政治的駆け引きこそが雌雄を決するのであり、海の男たちの気高さなど、どうでもいい些少のことなのである。

一度も対面したことがないまま海戦するイギリス艦隊員たちと、捕虜として直接、どこか友情すら感じている商船関係者たちとの微妙な温度差を描き分けているのも興味深い。

日本人の自分としては、イギリス映画でありながら、敵の気高さを強調する描き方に感じ入った。

戦勝国ゆえの優越感から描いているとも感じないし、同じ敗戦国イタリアの名匠ヴィスコンティが得意とした「滅びの美学」とも違う『美しさ』。

そして、唐突的な終焉の描き方。だが、それによりイギリスという戦勝国こそが、勝負には勝ったものの、実は『敗戦』という、図式が浮かび上がる。また、その事実をノー天気に伝える、当時、まだ参戦していないアメリカのマスメディアの奢りさえ浮かび上がらせる。

しかし、映画全体として見ると、海の男のドラマや、政治的駆け引きよりも完全に、英独の4隻の戦艦こそ主役だと感じる作品である。

こういった角度から映画を描けるコンビに脱帽する。

余談雑談 2012年4月7日
どうやら眼下の桜が満開である。寒さで開花が遅れたり、爆弾低気圧に襲われたりと、自然界の怒りを感じるが、それでも桜は咲く。 既に花見の酔客たちも見受けるが、夜明け時など静かで、見事に美しい。この淡い色に、何を重ねるか。 メリハリの少ない、微妙