赤い靴 – THE RED SHOES (1948年)

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スタッフ
監督:マイケル・パウエル、E・プレスバーガー
製作:マイケル・パウエル、E・プレスバーガー
脚本:M・パウエル、エメリック・プレスバーガー
撮影:クリストファー・チャリス
音楽:ブライアン・イースデール

キャスト
レイモントフ / アントン・ウォルブルック
ヴィッキー / モイラ・シアラー
クラスター / マリウス・ゴーリング
リューボフ / レオニード・マッシン
バトフ / アルバート・バッサーマン
ブロンスカヤ / リュドミラ・チェリーナ
ボレスラウスキー / ロバート・ヘルプマン
パルマー教授 / オースティン・トレヴァー
ネストン夫人 / イレーネ・ブラウン

日本公開: 1950年
製作国: イギリス アーチャーズ作品
配給: BCFC/NCC


あらすじとコメント

名コンビと謳われたマイケル・パウエル&エメリック・プレスバーガー。様々なジャンルで数々の異色作を輩出してきた。そんなコンビの中で、芸術的センスが際立つ作品。

イギリス、ロンドン。とある新作バレエ公演の初日。作曲は音大教授である。教え子たちは、どのような作品に仕上がっているのかと興味深々だった。その中に教え子であるクラスター(マリウス・ゴーリング)がいたが、バレエが始まると驚愕する。何と、自分が作曲した作品が演奏されているではないか。しかも、作曲は教授自身のオリジナルであると銘打っていたからだ。

その初演には、自らが主宰する有名なバレエ団を持つレイモントフ(アントン・ウォルブルック)も来場し、教授と同席していた。

その事実を書簡にして送るクラスターであったが、思い直しレイモントフの元を訪れ、手紙を返してもらうように頼んだ。しかし、既にそれを読んでいた彼は、その場で彼にピアノ演奏をさせ、尋常ならざる才能を見いだす。

彼は、すぐさま自分のバレエ団の練習に来るよう命じた。一方で、レイモントフは、そのバレエ公演の後に、意に沿わぬパーティで知り合ったプリマドンナ希望のヴィクトリア(モイラ・シアラー)も、呼びつけていたが・・・

バレエに魅入られた人間たちが辿る数奇な運命を描く秀作。

狂気までを全面にだしても、バレエに打ち込む主催者。自分の審美眼に絶対の自信を持ち、他人に対して居丈高に接する男である。しかし、その眼は間違いなく、ゆえに、誰からも尊敬されている。

そこに将来有望で才能のある作曲家志望の青年と最高のプリマドンナを目指す女が絡んでくる。

そのトリオが新作バレエに取り組む。それが「赤い靴」である。オリジナルは、童話作家アンデルセンによるもので、赤い靴に魅入られた女性が、その靴を履くことにより、休むことなく、ずっと踊り続けるという童話ながら、非常にシニカルで残酷な内容。

映画は、それを具象化して行く。まだまだ白黒映画が全盛の時代に「色彩映画」として非常に印象深く描かれて行くバレエ場面は鳥肌が立つほど美しく妖艶である。

しかも実際にバレエを踊れる人間が、舞台の臨場感たっぷり演じながら、そこに映画ならではのテクニックが駆使される。

実に、この名コンビの作品の「色彩感覚」にはいつも感じ入る。以前、扱った「天国への階段」(1946)、「黒水仙」(1946)然りである。しかも、どの作品にも「緊張感」があり、何てことないショットに鳥肌が立つほどの「恐怖感」が増幅されるのだ。

ある意味、同じくイギリス人のヒッチコックと見比べると、その同一性と逆の差異が感じ取れる。

本作は、残酷なる童話と魅入られた人間らがメインとして描かれるので、その狂気性はストレートに伝わって来る。

気色悪いほど施されたメイク。思わせぶりで、いかにも作りものと思わせるセットや合成画面。そして美しいバレエ場面。それらすべてが混然一体となって綴られて行く。

どの場面、どのショットにも意味があるのは当然であるが、優雅さ漂う場面で、こちらに印象付けられるのは、真逆の真理。

例えば「安定」の反対語は「不安定」であるが、「定」を外すと「不安」になる。このような微妙な違いで、意味すら多少異なるが、それと同じように、画面から伝わる息吹も変化するのだ。つまり人間の感情とは、些細なことで劇的に変化する。

それを雄弁に語る色彩豊かな画面構成。そして浮かび上がるのは魅入られた人間の持つ「不気味さ」と「狂気」。

『完全なる虚構である作り物』。それこそがバレエや映画といった芸術。しかし、それを描くのは生身の人間。その薄氷の上をそぞろ歩くがの如く進行する作劇に魅入られる秀作である。

余談雑談 2012年4月14日
石垣島滞在中である。 東京を出るときは、どこぞの衛星もまだ打ち上げておらず、まさか沖縄に向かう自分の搭乗機に、ぶつかったりはしないだろうな、と不安もあった。 結果、あちらは失敗したらしく、一安心である。これでノンビリと滞在できる。 初日は那