スタッフ
監督:ローレンス・カスダン
製作:フレッド・T・ガッロ
脚本:ローレンス・カスダン
撮影:リチャード・クライン
音楽:ジョン・バリー
キャスト
ラシーン / ジョン・ハート
マティ / キャスリーン・ターナー
ウォーカー / リチャード・クレンナ
ローエンスティン / テッド・ダンソン
グレース / J・A・プレストン
ルイス / ミッキー・ローク
メリー・アン / キム・ジマー
ステラ / ジェーン・ハラーレン
ハーディン / マイケル・ライアン
日本公開: 1982年
製作国: アメリカ ザ・ラッド・カンパニー作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
「怖い女」で繋げた。白黒映画時代が全盛であった『ファム・ファタールもの』だが、カラーを印象的に活用し、且つ、暑苦しさをも見事に感じさせる作品。
アメリカ、サウス・フロリダ。この地で弁護士事務所を構えるラシーン(ウィリアム・ハート)は、熱血派でもなく、大した実力もない男であり、どちらかというと、仕事よりも女性に眼がないタイプである。
今日も、親友でもある検事ローエンスタイン(テッド・ダンソン)との裁判に負け、慰められる始末。きっと、調子がでないのは、今夏の異様なまでの暑さのせいだ。
暑苦しく、ムシャクシャしていたラシーンは、夕涼みがてら出掛けたパークで、白い服を着て、一際セクシーなマティ(キャスリーン・ターナー)を見かけて・・・
ホットな場所でクールに繰り広げられるサスペンス映画の佳作。
仕事よりも色ごとに眼がない弁護士。親友は検事と真面目な刑事だ。いつも三人で、くだらない会話をしているような、決してエリートではない男。しかも浮名を流す女性も、大した相手ではない。
そういった厭世的でありながら、好色という主人公を常に暑さを感じさせる画面で見せ付けて来る冒頭。
そこで、ヒロインの登場である。当然、ハッとするほど艶っぽく、主人公ならずとも心動かされる。しかも、その前に、男がいかにスケベかと刷り込まれているから、その後、彼がどのような行動を取っていくかが手に取るように分かる。そして、その通りに進行し、坂を転がり始めるのだ。
勿体ぶって、その気があるような素振り。それでいて、自分は人妻であると笑う。直後、その女は、主人公の目の前から不意に消える。まるで、彼の熱意を試すかのように。当然、主人公は女の術中にはまり、やがて激しい性交渉と共に抜けだせなくなっていく。
二人の肉欲は、常に獣のように激しく求め合い、火照った体を冷ますために二人してバスタブに漬かり氷を入れる。
そんな二人の関係に淀んでいるのは、常に暑苦しく、湿っぽい熱気。
やがて目障りなのは亭主という結論に達して行く。
ありがちである。それは原作が1943年に発表されたからであろう。ジェームス・ケインの「倍額保険」。
ご存知の方も多いかとも思うが、本作はビリー・ワイルダー監督作「深夜の告白」(1944)のリメイクである。
個人的には、リメイクの中では、好きな部類に入る出来栄えだ。それはヒロインを演じた、本作が映画デビューのキャスリーン・ターナーの見事なまでの悪女振りと、脚本家出身で監督デビューとなったローレンス・カスダンの手腕によるものである。
意識的にヒッチコックの影響を垣間見させる演出。それでいて、アメリカ人らしい猥雑さも混在している。
そのあたりはブライアン・デ・パルマにも通ずるヤラシさである。
独自性よりも、どこかで見たことのあるような安定した画面作りを意識しているとも感じるスタイル。
しかも、そこにはルネ・クレマンの超有名作の残り香さえ漂わす。
しかし、敢えてそういった演出術を用いたことにより、古い原作をカラーで蘇らせた安定感もある。その微妙なタッチ。
それを体現するヒロインのターナーも妖しくて見事。以後、彼女のキャリアがある程度、固定されてしまったのも頷ける。
カスダン自身が書いた脚本も洒落てニヤニヤする台詞も登場し、エロティック・サスペンスとして上手く機能しているし、若手が多い中、ヴェテランのジョン・バリーの音楽もマッチして盛り上げる。
確かに、想像以上のどんでん返しはないし、更に、こちらの期待通りに、幾度か変調しながら進行する展開だが、それでも飽きさせないという、上手く仕上がった作品である。