スタッフ
監督:ビリー・ワイルダー
製作:ジョセフ・シルトロム
脚本:B・ワイルダー、レイモンド・チャンドラー
撮影:ジョン・サイツ
音楽:ミクロス・ローザ
キャスト
アイリス / バーバラ・スタンウイック
ネフ / フレッド・マクマレイ
キース / エドワード・G・ロビンソン
ローラ / ジーン・ヘザー
ディートリクソン / トム・パワーズ
ザケッティ / バイロン・バー
ノートン / リチャード・ケインズ
ゴーロピス / フォーチュニオ・ボナノヴァ
ジャクソン / ポーター・ホール
日本公開: 1953年
製作国: アメリカ パラマウント作品
配給: パラマウント
あらすじとコメント
前回紹介した作品のオリジナル。時代を感じさせるものの、コメディではないビリー・ワイルダーの才能が垣間見られる作品。
アメリカ、ロサンジェルス。パシフィック保険会社のネフ(フレッド・マクマレイ)は、自動車保険の契約が切れる顧客の家に立ち寄った。だが、本人はおらず、応対にでたのは、妖艶な後妻のフィリス(バーバラ・スタンウィック)。
彼は熱心に再勧誘をすると、彼女は傷害保険は扱っていないのかと尋いてきた。当然扱っていると答えるが、すべては亭主の返答次第である。
邸を辞すと社に戻った。すると上司で調査員キーズ(エドワード・G・ロビンソン)がネフを呼び付けた。彼が取った契約者が保険金錆を試みたというのだ。しかし、ネフにはどうでも良いこと。契約件数を取れば勝ちだと思っていたからだ。
そんな彼を、フィリスが夫がいない日に呼びだした。主人に心配をかけたくないから、内緒で傷害保険に加入できないかと・・・
男女が泥沼にはまるクライム・サスペンス映画の秀作の一本。
映画は冒頭、深夜に自分のオフィスに来た主人公が、息も絶え絶えに友人の調査員に宛ててボイス・レコーダーに過去を録音し告白するところから始まる。
つまり、観客は、結末から知るという倒叙式スタイルである。
そこから、過去に遡り、何故、そこに至ったかという回想劇で進行しつつ、主人公のナレーションが入る。
そのナレーションが妙にキザであり、ハードボイルド調なのである。それもそのはず、脚本はワイルダーと、かのレイモンド・チャンドラーだ。
探偵フィリップ・マーロウを輩出した作家が、いかにも彼らしい台詞を多発してくる。逆を言えば、ワイルダーらしさが目立たないのでもあるが。
しかし、ワイルダー・イコール・コメディではない、非凡さが感じられる。
クールで抑えた、いかにもノワール映画としての雰囲気と、単なるファム・ファタールとも違う独特のリズム。
スト-リィとしては、主人公が人妻の妖しい魅力に感化され、悪事に手を染めていくのだが、やがて、同僚のヴェテラン調査員の動向やら、ヒロインとの間に疑心暗鬼になる出来事が起きて行くという展開。
しかも最初に登場するヒロインはバスタオル一枚というセクシーさであり、その上、足首に巻くアンクレットを付けている。当時の風俗は知らないが、一時期、日本でもアンクレットをした女性は『遊び人』だという都市伝説のようなことが言われていた。
しかし、本作のヒロインは、遊び人以上である。しかも、どこまで本気で、何が嘘なのかという、いかにもの悪女っぷりを見せ付けてくる。
だが、ヒロインを演じた、バーバラ・スタンウィックが、どうにも中途半端な印象を受けた。何ショットか、ハッとする演技を披露するが、全体的な演技の流れを見て、男が泥沼に陥るほど籠絡されていくという悪女には見えなかった。
ただ、主役のフレッド・マクマレイが中々の力演だし、更に、ギャング映画の雄で、ヴェテラン俳優エドワード・G・ロビンソンが見事。
いつも大げさな演技で、時々鼻白むこともあるが、今回は真面目で冷静な上司という役どころを抑えた演技で上手く表現している。
ワイルダー自身も、本作では脚本家の部分で自分をだしきれなかったと感じたのか、中盤以降、見る者をグイグイと引きずりこむ演出には舌を巻いた。
まったくコメディ部分がなくても、独自のカラーを醸しだすとは、流石のワイルダーだ。