地獄の英雄 – THE BIG CARNIVAL(ACE IN THE HOLE) (1951年)

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スタッフ
監督、制作:ビリー・ワイルダー
脚本:ビリー・ワイルダー、レッサー・ダニエルズ
ウォルター・ニューマン
撮影:チャールス・ラング
音楽:ヒューゴ・フリードホッファ

キャスト
テイタム / カーク・ダグラス
ローレン / ジャン・スターリング
クック / ロバート・アーサー
フェダバー / フランク・キャディ
ミノーサ / リチャード・ベネディクト
クレツッアー保安官 / レイ・ティール
マッカードル / ルイス・マーティン
ミノーサの父親 / ジョン・バークス
ミノーサの母親 / フランシス・ドミンゲス

日本公開: 1952年
製作国: アメリカ、B・ワイルダー・プロ作品
配給: F・E・B、東宝


あらすじとコメント

引き続きビリー・ワイルダー監督作品。どうしてもコメディ作品の印象が強いが、前回の「深夜の告白」(1944)同様、シリアスなドラマも結構多い。そんな作品の一本。

アメリカ、ニュー・メキシコ。小さな地元新聞社に妙に居丈高なテイタム(カーク・ダグラス)がやって来た。彼はニュー・ヨーク、シカゴなど11の大都市の新聞社を渡り歩いてきたと、編集長兼社主に吹聴した。

彼は売れるためには、「捏造」「扇情」など当たり前であり、社会性よりも売り上げこそがモノを言うと笑い、半年かそこらで、自分がここを立ち直してみせる、と。

鷹揚な社主は、そんなテイタムを採用した。しかし、何もない地方都市。一年経っても、一向に成果は上がらず、周囲に当たり散らすテイタム。

そんなある日、田舎町でのイベント取材を命じられた彼は、若い助手と共に途中で立ち寄った給油所で、そこの老夫婦から只ならぬ雰囲気を感じ取った。給油所の後ろにそびえる山の廃銀鉱で、先住民の宝探しをしていた息子が落盤で生き埋めになっていると聞く。

本能が動き、テイタムは、危険を顧みず中に入り、息子が生きていることを知って・・・

人間の果てしない欲望を描く社会派ドラマの佳作。

上昇志向の強い記者。しかも、自分を売るためには手段を厭わない。分かりやすい設定にして、どこか感情移入しにくい設定。

当然、獣の勘で、これは扱いようによって面白い記事になると直感する。それからの行動がすごい。只々、必死に祈るしかできない両親を尻目に、即座に『おいしい』記事にするべく奮闘し始める。

通常ならば、そんな主人公をたしなめるとか、正しい道へ引き戻そうとするのが、当時の映画ほとんどの進行だろう。

しかし、本作は違う。何せ、主人公同様に「自分勝手」な人物が続々登場してくるのだ。

先ずは、生き埋めになっている男の妻。場末のダンサー上がりで、こんな辺鄙な場所から逃げだしたいと思っていて、亭主を見捨てて、今こそ逃げだすチャンスだと思っている。更には、再選を狙う腹黒保安官、若き主人公の助手もいずれは大都会への進出を夢見ている。

『同じ穴のむじな』と直感した主人公は彼ら以上の冷徹さと知性で、取り込んで行く。当初、適切な作業をすれば48時間で救助できるものを、それでは妙味に欠けると別な作業を強要する始末。

だが、扇動的に書く彼の記事によって、見物客が殺到し、遂には見世物小屋まで出来て、カーニバルの態を成して行くのだ。

主人公の欲望は益々増長し、他の人間らを平気で蹂躙していく。そして、物見遊山で同情する大衆から大手新聞社の記者たちと次々登場してくるキャラクターたちにも僻々していく。本来であれば、宝探しで生き埋めになる男も、ある意味、身勝手なのだが、その程度では憐情まで感じるほど。

鬼気迫る演技を見せるダグラスは、背筋が凍るし、ワイルダー演出も、見事な編集で映画を盛り上げる。

『アメリカン・ドリーム』への解りやすいアンチテーゼであり、それはオーストリアから渡米し、貧乏のどん底を味わって来たワイルダーだからこその、冷徹なる視点とも感じる。

主人公同様に、悪い意味での「個人主義」から派生する「利己主義」を具象化したキャラクターたち。唯一、観客代表の視点で、善人として描かれるのが新聞社社主である。

腰のベルトの他に、吊りベルトまでする「堅実派」として主人公に揶揄されるのだが、それこそが人間の本来の姿であるという分かりやすい設定。

結局、単純なのに、否や、単純だからこそ、他人になめられたくないと見栄を張る自分勝手な人間たちなど、所詮、その程度では、更に狡猾な人間には敵わないと、こちらに思い知らさせてくれる佳作。

余談雑談 2012年6月16日
東京も梅雨に入った。 開業したばかりのスカイツリーも上部が雲に隠れる日が続く。 そんな中、こちらの心も雨模様だ。興味ない人には、何ら関係ないことだが、「牛の生レバー」が食べられなくなる日が近付いてきた。 連日、テレビ報道がなされているが、興