桃色の店 – THE SHOP AROUND THE CORNER (1940年)

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スタッフ
監督:エルンスト・ルビッチ
製作:エルンスト・ルビッチ
脚本:サムソン・ラファエルソン
撮影:ウィリアム・ダニエルス
音楽:ワーナー・ヘイマン

キャスト
クララ / マーガレット・サリヴァン
クラリック / ジェームス・スチュワート
マトチェック / フランク・モーガン
ヴァダス / ジョセフ・シールドクラウト
フローラ / サラ・ヘイデン
ピロヴィッチ / フェッリクス・プレサード
カントーナ / ウィリアム・トレーシー
イローナ / イレス・コートニー
ルディ / チャールス・スミス

日本公開: 1947年
製作国: アメリカ E・ルビッチ・プロ
配給: MGM、セントラル


あらすじとコメント

ジェームス・スチュワート主演作品。ラブコメ作品であるが、実に素晴らしい出来栄えで、思わず唸ってしまう。キャプラ作品とはまた違うタイプであり、どこかヨーロッパの洗練された雰囲気が漂う。それもそのはず、監督はビリー・ワイルダーの師匠エルンスト・ルビッチだから。

ハンガリー、ブタペスト。とある街角にある「マトチェク商会」。ここは、輸入品の皮製品などを扱う洗礼された店だ。

そこは、オーナーのマトチェック(フランク・モーガン)を筆頭に9年も勤め、主任になったクラリック(ジェームス・スチュワート)ら、6名の従業員がいた。世の中は不景気で、売上げも下降気味で、失業率も上昇していた。

そんなある日、店に若くて綺麗なクララ(マーガレット・サリヴァン)がやって来た。すぐに接客にでたのはクラリックだったが、何と、彼女は就職依頼に来たのであった。途端に、現在は募集してないと不機嫌になるクラリック。しかも、寸前にオーナーと新製品の件で、オーナーの意思を否定し、仕入れ不必要だと意見が合わず、揉めていたのだった。

だが、クララはその見本品を偶然入って来た客に売ってしまう。それを見て、気を良くしたオーナーはクララの採用を決定した。

しかし、以後、クラリックとの仲は、犬猿となってしまう。そんな彼は、私書箱を通して行っている文通相手の見知らぬ女性に、クララとの違いを強く意識していたが・・・

実に洒落たラブ・コメディ映画の傑作。

小さな商店の人々の集団ドラマの態を成しながら、それぞれの個性や人生を上手く垣間見せつつ、主人公の恋愛ドラマが進行する。

実は簡単そうで、中々難しいジャンルでもある。メインのストーリィは、主人公のスチュワートとサリヴァンの関係だが、お互いに恋人もなく、何故か口喧嘩ばかりしてしまうという展開と並行して、二人とも会ったこともない文通相手に、知性を感じ、夢と想像を重ねている。

現在で言うと「出会い系サイト」の元祖でもある匿名での文通。誰もが本心をさらけ出さず、一応の品位を持って、自己演出出来る世界でもある。

当然、観客は、互いの相手が誰かは想像が付く。では、それがどの段階で、どのように事実を知り、どんな結末に向かって行くのか。そんなことは、100パーセント想像が付くだろう。

だが、ルビッチがすごいのは、そこへ行く着く過程の上手さである。制作年度を考えても、当時、これほどまで、まどろっこしく、じらされる作風など、ルビッチ以外、誰も持ち合わせていなかったであろう。

弟子のワイルダーが、自室の壁に『ルビッチならどうする?』と書いた額を飾って、自分が脚本等に行き詰ったとき、それを見上げたというのは有名な逸話であるが、本作を見ただけでも、ワイルダーのした意図が理解できよう。

それほどの傑作である。解り切った王道の内容を、どれほど違う要素で映画として魅せるか。

登場人物は、ほぼ店員に限られ、進行も90パーセント以上が室内である。ところが、まったく舞台臭さがないのだ。

しかも舞台はアメリカやパリでなく、ハンガリーである。確かに設定などは、どの国でも良いだろう。だが、決まった登場人物たちの性格を端的に紹介する冒頭から、ラストまで、誰にも肩入れできるし、また、理解できる性格描写が連続する。

その作劇っぷりは見事であり、ラストのそれぞれが迎えるクリスマス・イヴのシーンなど、胸が熱くなり、映画史に残すべき、ハート・ウォーミングさである。

ワイルダー好きなら、本作は外してはいけない。どれほど、ワイルダーがルビッチの影響を受けているかを目の当たりに出来るから。

ちなみに本作をリメイクしたのがトム・ハンクスとメグ・ライアンの出演した「ユー・ガット・メール」(1998)であるが、こちらは本作と、一切、比べてはいけない。

余談雑談 2012年8月4日
先週、蝉が9階の自室に飛び込んできたと書いた。 年々、環境が変わっていると感じる。尤も、これは地球規模なので、全世界で、今までとは違うと感じている方も多いだろう。それは、当然、自室でも続いている。 で、今回は、「雀」のおはなし。 自室は屋外