今年も後二日。
そんな中、明日で閉店するもつ焼き屋に以前以上の頻度で通っている。この4年ほどの付き合いだけなので、閉店ありきで通うのは野暮なのだが。
それでも、店は今週に入って妙に忙しい。昨日は、開店からすぐに満席になった。「レバ刺終売」騒動とは違い、俄かファンではなく、皆、常連だ。そこに、久方振りの懐かしい常連が顔を出す。誰彼からとはなく噂が伝わり、ヒョイとやって来た姿に、一々、驚く女将さん。中には、宇都宮からやって来た御仁もいた。
誰もが、静かに酒を飲み、しみじみと老夫婦や、煤けた店内を見るとはなく見る。誰も騒ぐことなく、老夫婦もいつも通りだ。早めに帰る客も、特段お別れや、ねぎらうでもなく、いつも通り。
だが、やっぱり、漂っている空気感が違う。客の誰もが、静かに別れを告げている雰囲気が充満しているのだ。それこそが、店の『格』だろう。
大瓶のビールが550円、もつ焼き一本70円。野菜を切るところから始める野菜炒めは200円。ウチは、もつ焼き屋だからと、一度も表メニューにしなかった刺身が最高で400円。しかも、その刺身が抜群に美味い。ひとりで2000円も遣う客などいない店。一応、荒川区とはいえ、23区内でこの料金だ。
『昭和』が当たり前にある空間。客の誰もが、本当の呑ん兵衛。自分が生まれ育った浅草の実家の周囲は、飲み屋が多い場所で、いつか大人になったら、こういう店で飲みたいと願っていたような店。昔の日本映画で見かけた、木製の丸椅子とカウンターだけの安普請で、何てことない酒場。
しかし、そこで飲むには、常連の紹介なり、店の親父さんの許可が必要だった。金があるからとか、背広姿だからでは済まされない。当然、酒に飲まれるような無粋な人間は出入禁止。
そうやって安酒場ながら、大人の世界を教え込まれた。そんな自分の原体験を甦らせてくれた店。その終焉も間近。
その店で普通に振る舞い、辞して行く客たち。忘れていた人の情けの深さを痛感した。決まって、店を辞すと涙があふれる。その雰囲気を感じられただけでも倖せだ。時代は流れても、残っていた昔気質の人情、とでもいえようか。
明日は、そこの最終日。さて、どうするか。
どうか皆さま、心穏やかな年末年始をお迎えください。
本年も、ご愛読有難う御座いました。