数少なくなった行きつけの酒場に開店時間を目指して行ったときのこと。
何と、臨時休業の張り紙。長めの正月休みも終わったはずなのに、と嘆いて帰宅。
で、翌日。どうせ暇だとばかり、またもや、散歩を兼ねて出向いたら、ちゃんと営業していた。そこは母娘で営む店だが、お母さんは雪深い実家に帰省中で、娘がひとりで営業していた。
昨日の件を話すと、実は葬式だったと。その数日前、娘さんがひとりで、昼から営業してたら、近所の方が店に来て、いつも開いているラーメン屋が閉まってると言って来たらしい。
そのラーメン屋は、御主人を亡くし、残った奥さんが、たったひとりで継続している店で、酒場のお母さんの大の仲良しでもあり、何かの時のために鍵まで預かっていたとか。
三名ほどいた常連客を残し、店舗兼自宅に行くと、玄関で独居のおばあさんが、孤独死しているのを発見したのだとか。
警察に連絡を入れ、常連客には、お代はいらないから帰ってくれ、と臨時休業にし、結局、葬式一切を取り仕切ったのだとか。
でもね、店に戻ったら、カウンターに全員の飲み代が置いてあったのよ。
思い出した。そこの亡くなった旦那さんも、以前、職工だった客が孤独死し、葬式を出す人間もいないので、可哀相じゃないかよ、とその店で葬式を出したことを。
親子二代で、他人の葬式を出した父娘と自分の飲み代を置いて行く常連。
当たり前のことなのだろうか。大都会東京でも、まだこんなことがある。
お人好しだった旦那は、怖さも知らずにTVでの紹介を許可し、以後、先立てのレバ刺騒動までの数年間、行列の絶えない店になった。しかし、現在は、俄かファンは、まったく来なくなり、店は以前の静けさを取り戻した。
そんな店で、30年近くも飲み続けられる自分は、何と倖せなのだろうか。