スタッフ
監督:フレッド・ジンネマン
製作:ウィリアム・N・グラフ
脚本:ロバート・ボルト
撮影:テッド・ムーア
音楽:ジョルジュ・ドルリュー
キャスト
マン卿 / ポール・スコフィールド
アリス / ウェンディ・ヒラー
クロムウェル / レオ・マッカーン
ヘンリー8世 / ロバート・ショウ
ウォルジー枢機卿 / オーソン・ウェルズ
マーガレット / スザンヌ・ヨーク
ノーフォーク公爵 / ナイジェル・ダヴェンポート
リッチ / ジョン・ハート
アン / ヴァネッサ・レッドグレーヴ
日本公開: 1967年
製作国: アメリカ コロンビア作品
配給: コロンビア
あらすじとコメント
イギリス系俳優ロバート・ショウ。そんな彼が豪放な国王を演じた作品。地味な印象を受けるかもしれないが、実在の人物たちが織りなす歴史劇の秀作。
イギリス、チェルシー。16世紀前半のこと。法律家であり、高潔な人格者でもあるトーマス・マン卿(ポール・スコフィールド)は、ロンドンのウォルジー枢機卿(オーソン・ウェルズ)に呼ばれた。
国王ヘンリー8世(ロバート・ショウ)が王妃と離婚し、愛人との再婚を所望しているが、それにはキリスト教総本山であるローマ法王の許諾を得ねばならないからだ。それを法王に弁護できるのは、マン卿以外に英国にはいないのだ、と。しかし、卿は、それは人間の思い上がりであり、神を冒涜する姿勢であると信じ、拒否する。当然、それにより国王と枢機卿双方の怒りを買ってしまった。
一年後、枢機卿が病死し、トーマス卿に大法官への任命が下る。それも当然、国王の計らいである。策士であり、卿を快く思わない秘書官のクロムウェルや、立身出世にしか興味を示さない青年などの策略をはねのけつつ、自身の信念を貫くトーマス卿。
しかし、国王は、どうしても卿の祝福と服従が欲しい。そこで、国王は無謀なる法改正を卿に要求した・・・
実在した人物の自らの信念を貫く生き様を描いた骨太の秀作。
家族思いであり、高潔なる人格者。信仰心も強く、法律家でもある。
そんな主人公よりも若く、熱心なカトリック信者でもあり、宗教家ルソーが宗教改革を唱えたことを真っ向批判し、ローマ法王からの信望も厚かった国王。当然、トーマス卿を崇拝していた。
しかし、正規の王妃との間に世継ぎが出来ないため、愛人との再婚を願ったことから問題はややこしくなる。
カトリックでは、離婚は禁止であった。しかし、このままでは国が滅ぶ。そこで国の将来を不安視した国王は何とか、自分に都合よく再婚出来るよう画策しようとしたのが発端である。
当然、様々な障害が横たわる。やがて国王は英国教会や貴族たちを懐柔し、法規改正を強要してくる。それに対し、主人公は静かなる徹底抗戦を繰り広げるという内容である。
そこに家族や策士、貴族やら教会関係者と絡んで来る。確かに、コスチューム・プレイであるし、アクションやサスペンスといった派手な場面も一切なく、実に地味なストーリィ。
敬遠したくなるタイプの映画かもしれぬ。しかし、これが一時も目が離せないのだ。
骨太で正攻法な作劇で押し切るフレッド・ジンネンマン監督の力量も見事だし、俳優陣も多少、地味目ながらも実に素晴らしい。
特に主役を演じたポール・スコフィールドは、本作が映画としては3作目であるが、その見事なる演技ゆえアカデミー賞の主演男優賞から、ゴールデン・グローブ賞、NY批評家賞など総ナメにした。それもそのはず、彼は舞台でロンドン、ブロードウェイと本役を演じて来たのだから。
それにとどまらず、作品賞、監督賞にも輝いている力作である。
確かにアメリカ映画関係者はイギリスやフランスといった作品なり設定に弱いという通説通りではあるが、それでも、本作は見事である。
「信仰心」と自分の「信念」に命を賭す。法律家でもあるので、弁舌で相手を論破していくのかと思うと、さにあらず。実に静かであり、比喩に富んだ言い回ししかしない。しかし、その僅かな息使いや強い視線から、彼の心情が饒舌に伝わる。
これが国王ではなく、現在の大統領なり、首相が、ワガママを通し、イエスマンしか残さない三権の長となったら、どうなるのか。
その下で必死に蠢く人間たちが、現代の政治家や官僚に見えてしょうがなかった。時代は流れど、高位を目指す人間たちの本質は何ら進歩していないと唸るしかない、大吟醸の作品。