スタッフ
監督:ニコール・ガルシア
製作:アラン・サルド
脚本:N・ガルシア、ジャック・フィエスキ
撮影:ロラン・ダイヤン
音楽:リチャード・ロビンス
キャスト
マリアンヌ / カトリーヌ・ドヌーヴ
ナタリー / エマニュエル・セリエ
パティステリ / ジャック・デュトロン
ジャン=ピエール / ジャン・ピエール・バクリ
マリヴェール / ベルナール・フレッソン
エリック / フランソワ・ベルレアン
クライザー / フィリップ・クレヴノ
ローゼン / ラズロ・サボ
ヤノス / ドラガン・ニコリッチ
日本公開: 1999年
製作国: フランス TFIフィルム 他作品
配給: コムストック
あらすじとコメント
今回もカトリーヌ・ドヌーヴ。55歳という年齢で撮った作品。サスペンス・タッチの作品ながら、やはり、フランス映画特有の観客のレヴェルを試すような作品。
フランス、パリ。ヴァンドーム広場に超高級宝石店『マリヴェール』があった。そこの社長夫人マリアンヌ(カトリーヌ・ドヌーヴ)は、かつて有能な宝石ディーラーであったが現在は、情緒不安定で周囲をハラハラさせていた。
ある日、彼女の亭主で社長であるマリヴェールが自動車事故を起こし死んでしまう。しかも、店の内情は火の車であり、亭主に店員の愛人がいたことまで発覚。困惑する彼女に、更に輪をかけるように役員たちは、買収話があったとして、自分らの保身のため、何とか彼女に譲渡書にサインをさせようとした。
しかし、納得がいかないマリアンヌは、亭主が密かに隠し持っていたダイヤを発見し、昔のように売り捌いて、立て直そうと奔走し始めた。
だが、そのダイヤというのが・・・
情緒不安定な人妻が、かつての輝きを取り戻そうとするサスペンス・ドラマ。
高級ホテルやショップが立ち並び、どこか近寄りがたい雰囲気が漂うというヴァンドーム広場。
そこにある超有名宝石店。全世界の女性の誰もが欲しがるが、そう簡単に手に出来ない宝飾品。一般人であれば、でるのは、ため息だけであろうか。
しかし、それで商いを立てる人間には、見栄と虚飾の世界であり、その実情は魍魎跋扈の世界でもある。
そこの社長が死んだことにより、以前の輝いていた自分を見いだそうとする主人公。
ストーリィに絡んで来るのは、社長の若き愛人、その恋人で、元弁護士でありながら現在は「差押執行人」に成り下がった男。そして、主人公を情緒不安定に陥れたかつての恋人。
何よりも、社長が遺したダイヤが、ロシアのマフィア絡みだったことから、更に話はややこしくなるという寸法。
そうなると、展開が楽しみになるだろう。ところが、本作はどうにも素直に進行してくれないのだ。
どこか「ブツ切り」なシーン進行で、後に関係があるのかないのか判断しづらい場面の挿入によって、見る側を試すような進行なのである。
つまり、観客にも『大人度』を要求し、三割程度は見せるから、残りは行間を読めという作劇。
確かに、観客は画面に集中せざるを得ない。ならば、膝を打つようなオチなりが欲しいところである。
しかし、本作は、観客の僅かな希望的観測すら突き放すような内容でもある。
要は、ストーリィの整合性や起承転結を楽しみたい観客には、とても残念な印象を与える作品でもある。
ヌーヴェルバーグ以降、どこか観客を挑発し、作家性を強調する作風。観客に、文学や哲学、芸術などに、ある程度、造詣が深いことを要求するスタイル。
そこに『独自性』を自負するフランス人気質を感じるが、それが、どこか神経質とさえ感じる人間も多いと思う。
しかし、最後まで埋まらないパズルのようではあるが、そのワン・ピースとして写しだされるシーンが、常に素晴らしいとも感じた。
冒頭の髪を簡単に束ねただけで、疲れ切った表情を浮かべるドヌーヴの55歳とは思えぬ艶っぽさ。
登場人物たちの衣装や、パリの息吹を感じさせるカフェや街並。
まるで登場人物に寄りそうパリの人間のような錯覚。この絶妙な空気感こそを楽しむべきかもしれない。
さもなくば不完全燃焼のまま放りだされることになりかねない。
どうにも、大御所ドヌーヴの、老いてもまだ美しい存在感を際立たせるオーラに頼った作品であると感じざるを得ない。