元地元の石窯ピッツア屋の支配人。彼から、また連絡が来た。別なイタリアンの店を紹介するという。
美味いものは嫌いではない。しかも、プロが紹介してくれる同業者の店。一方で、世の中は、まだまだ不景気。なので客を廻し合うという考え方も出来る。
素直に信じることにして同行した。場所は、まったく不得手な「亀戸」。10年以上も足を踏み入れてない地域だ。
しかも、何故こんな路地に、という場所。女性など、一人では怖くて通れないであろう路地だ。路地の入口に看板も出ていないし、非常に見つけにくい店であった。元支配人も覚えるのに三度も迷ったと。
元は小さな寿司屋でカウンターのみ。内装など寿司屋のまま。何とも珍妙な店内で、40歳前後のオーナー・シェフがたった一人で営む店。
しかし、出てくる料理すべてに絶句した。これほどのクオリティのイタリアンは、一人数万円単位の超高級リストランテぐらい。
紹介者の元支配人も、自分同様に味に陶酔している。前菜的つまみが500円から1000円程度。パスタも1500円未満。どれも、ほぼ完璧といえよう。
オーナー・シェフは元麻布十番の超高級リストランテで料理長を務めていたという。さもありなんである。
通常であれば成城や自由が丘といった東京の西側のいかにもという場所で開く。彼は、それだけは絶対に避けたかったし、グルメを気取る客たちに、亀戸って、どこ的な地域で、しかも、簡単に辿り着けない路地でひっそりと営業したかったと。しかも、周囲には、お洒落なカフェや大人のバーもない地帯だ。
大好きな発想だ。要は、わざわざ、ここまで自分の料理を食べに来い、という上から目線。だが、低姿勢で命令口調の某ラーメン屋的思い込み型ではない。それでいて納得できる味と値段。
誰かれ構わず連れて行けない店が出来た。自分の中で、ここぞ、というときに行く店。
時どき、顔を出す新宿区と文京区の境目にある、通常の日本人なら敬遠する南イタリアのパンを忠実に再現する店。その店も、何故、こんな場所でと思う。
その店主も40歳手前だ。これからは、そういった風変わりだが、客を選ぶ頑固な店が増えるのかもしれない。
それこそ、ある意味、イタリア的。彼らはまだ若いし、将来も期待できる。
何だか、嬉しい限りだ。