スタッフ
監督:リンゼイ・アンダーソン
製作:マイケル・メドウィン、L・アンダーソン
脚本:デヴィッド・シャーウィン
撮影:ミロスラフ・オンドリチェク
音楽:アラン・プライス
キャスト
トラヴィス / マルコム・マクダウェル
バージェス卿 / ラルフ・リチャードソン
グロリア / レイチェル・ロバーツ
ダフ / アーサー・ロウ
パトリシア / ヘレン・ミレン
スチュワート / グラハム・クローデン
工場長 / ピーター・ジェフリー
ジェンキンス / フィリップ・ストーン
司会者 / ウォーレン・クラーク
日本公開: 1973年
製作国: イギリス メモリアル・エンタープライズ作品
配給: ワーナー
あらすじとコメント
俳優マルコム・マクダウェル。ある意味、いかにものイギリス系「怪優」でもある。今回は、成り上がりを夢見る青年の破天荒で、有り得ない展開を見せる不可思議な人生ファンタジーとも呼べる作品をチョイスした。
イギリス、西部の某所「帝国コーヒー」という販売会社に入社したトラヴィス(マルコム・マクダウェル)は、研修中にも関わらず、広報部長グロリア(レイチェル・ロバーツ)のひらめきから、突如、退社した優秀セールスマンの担当地区を引き継ぐことになった。場所はイングランド北西部だ。
営業車にサンプルを積み込み、地図を片手に新任の挨拶に向かった。既存の取引先に挨拶をし、前任者の定宿にチェックインした。すると、そこで暮らしている老人から、「女主人には気を付けろ」と言われる。何のことだろうと思っていると、その夜、早速ベッドへのお誘いが来た。若いトラヴィスは躊躇うことなく一夜を共にする。
楽しんだ後の夜明け前、会社から突然、電話が入ってきた。すぐにスコットランドへ行けと。命令とあれば行かぬ訳にはいかない。
彼は、すぐに北へと向かったが・・・
若者の波乱万丈な人生を、何とも不思議なタッチで描いた作品。
立身出世を夢見る若者。深い考えがあるようにも見えず、場当たり的。それでも、野望を持ち、何にでも体当たり行動で人生を切り開いて行く。
ありがちな設定ではある。ところが、リンゼイ・アンダーソン監督は、不条理的シュールさを伴って描いて行く。
では、イギリスらしい皮肉の利いたコメディかと思うと、さにあらず。至って真面目に進行して行くので、戸惑う観客も多いだろう。
何せ、原発のような秘密施設に入り込んで、スパイと疑われ拷問を受け、爆発による大事故に紛れて保々の態で逃げだすと、次は、高給につられ、病院での人体実験に参加。それでもビッグになりたいと願い、偶然にも世界の半分の銅山を保有する大金持ちの秘書に抜擢される。
どう考えてもコメディの設定だ。しかし作劇は真面目であり、笑いを誘わない。
そもそも当初は珈琲のセールスマンだが、いつ退社したのか解らないし、ストーリィの整合性は無視され、かといってファンタジーとして片付けるにはリアルさが勝る。
何とも不思議なティストであり、既に放映されていたイギリスBBCテレビ製のシュールなコメディ番組「モンティ・パイソン」にインスパイアされのかとも思うが、一向に笑えない。
どこか社会へのアンチテーゼを込めているとは理解できる。だからか、本作では不条理さ加減が増長しているとも感じる。
ただし、映画という表現方法に於いて、どこか頭でっかちで理論的に映画を捉えようとしているアンダーソン演出は好き嫌いが分かれるだろうか。
それでも、シュールさが勝るコメディ的展開は、中盤以降も増幅されて行く。やがて本作は、宗教をも絡めた自己啓発なり、人生の更なる試練、人間は信用に値するのかといった哲学的な要素も表現するために、敢えて、折々に、映画のリズムを変えようと狂言回し的にバンドの演奏場面を挟んだり、世界各国の字幕を羅列する表現を挿入したりという進行を見せる。
全てが監督の意思であり、意図することだとはきちんと理解できる作劇なので、一定のリズム感は存在している。
そこに、無碍に失敗作であるとは言えない実力を感じる。
どの宗教にせよ、その理念よりも人間という個人として、運も含めた実力を身に付け、のし上がろうとせよというアメリカ的価値観の表現でありながら、イギリス人として、どこかそういった観念を小バカにしている深謀遠慮さが浮んでいる。
人間の価値観は成長するに従い、変わるとしても、結局は、外的要因で打ち砕かれるので、生来の本質が重要であるという哲学的普遍さを説いている作品だと感じる。