スタッフ
監督:ジョン・ヒューストン
製作:ジェームス・ヒル
脚本:ベン・マドウ
撮影:フランツ・プレーナー
音楽:ディミトリー・ティオムキン
キャスト
ベン / バート・ランカスター
レイチェル / オードリー・ヘップバーン
キャッシュ / オーディ・マーフィ
ポーチュガル / ジョン・サクソン
ローリンズ / チャールス・ビッグフォード
チャールス / アルバート・サルミ
マチルダ / リリアン・ギッシュ
ケルシー / ジョセフ・ワイズマン
アンディ / ダグ・マクルーア
日本公開: 1960年
製作国: アメリカ ヘクト・ヒル・ランカスター・プロ作品
配給: ユナイト
あらすじとコメント
前回が、先住民とのハーフと白人の複雑な感情を描いた人間ドラマがメインの西部劇。そこから連想した作品で、ミステリアス・タッチで進行し、やがて人間の業が顕わになっていき、複雑な心境に陥る映画。
アメリカ、テキサス数年前、この土地に移り住んできたザカリー一家だが、主は先住民カイオア族に殺害されていた。現在は、母親マチルダ(リリアン・ギッシュ)と4人の子供たちが暮らしている。
思慮深く、かつ骨太な長男ベン(バート・ランカスター)は、地元の仲間たちと組んで牛6000頭を集め、大きな取引をするべく、弟らと商売の準備で出掛けていた。
家に残っていたのはマチルダと娘のレイチェル(オードリー・ヘップバーン)だけであった。そこに、どこか気味悪い男が幽霊のようにやって来た。最初に気付いたのはレイチェルだ。男は、馬上から彼女に意味深で嫌味な言葉を吐く。気味悪さを感じ、家に戻ると母親にそのことを話した。
風体から、一瞬にして顔色を変える母親。それでも、きっと通りすがりの狩人だと言い含めようとする。
素直なレイチェルは、母親の話を鵜呑みにするが・・・
複雑な人種偏見から、異様なまでの確執に発展する人間ドラマ。
謎の男が、まるで悪魔の使者でもあるかのように現れ、主人公一家の何らかの秘密を握っていて、それを周囲に吹聴して廻る。
どうやら、その男が何者かは、母親だけが知っている模様というミステリアス・タッチで幕を開ける。主人公の長男は妹を溺愛しており、どこか近親相姦的な匂いもある。
ストーリィとしては、ヘップバーン扮する末娘が、先住民の可能性を漂わせ、周囲の人間たちも、わざと素知らぬ振りをして過ごしている日常という展開。しかし、当の娘だけは、そんなことを微塵も感じていないから厄介だ。
そんな娘にプロポーズする、彼女らの良き理解者でもある仲間一家の息子。その息子に災難が起きたことから、映画は一挙に悲劇へと突き進んでいく。
差別が色濃く残る地で、新参者である一家が抱える秘密。新参者ゆえ、一家の本当の過去を知らない周囲の仲間たち。そして終盤、迫力あるクライマックスへと流れ込んでいく。
謎の男、カイオア族という先住民らが、非常に不気味に描かれる。というよりも、一体、誰が正義で、誰が悪者なのかと問いかけてくるジョン・ヒューストン演出も、ゾッとするほど気色悪い。
そこまで必要かと思わせる俯瞰撮影や、窓越しの遠景など、ヒッチコックとは、また違うハッタリを含んだ画面構成。まるでホラー映画のような雰囲気さえ漂う。
そして、当時、お人形さん女優的なイメージのオードリー・ヘップバーンに、このような役を振るという異色さ。
ランカスターは、いつも通りではあるが、次男役のオーディ・マーフィや、三男役のダグ・マクルーアなど、いかにものB級西部劇俳優を出演させ、母親役に、お懐かしやのリリアン・ギッシュや、よき理解者であり、仲間内の実力者にチャールス・ビックフォードを配するなど、キャスティングも実にヤラシイ。
人種差別に端を発し、秘密保持のためには非情な選択さえする、いびつな家族像。幸福な人間など誰ひとり登場しない特異性。
各々の価値観が、思いやりなり、厚情さえも無残に踏みにじる。まさに因果応報なのではあるが、逆に、先住民や謎の男にも気高さを感じさせる進行には、胸が詰まる。
結局、南北戦争の敗戦者や、先住民にこそ敬意を払うべきで、新参者は分をわきまえろ的な価値観は、好き嫌いは分かれようが、ヒューストンの男としての矜持を全面にだした佳作である。